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氷河期

作者: 津嶋朋靖

 氷河期は、突然訪れた。

 なんの準備もできないうちに……

 世界中で、凍死者が続出した。

 日本も例外ではなかった。

 対策に頭を痛める日本政府。

 だが、ろくな対策がない。

 化石燃料は、まったく足りない。

 原子炉は、反対の声が大きくて動かせない。

 核融合炉は、完成しない。

 八方塞がりだった。

 そんな時、科学者のエス氏が画期的な発明をもって首相官邸を訪れた。

「暖かくなったな」

 官邸の屋上で総理は、エス氏の持ち込んだ一台の奇妙な装置に手を押いた。

 装置は熱くも何ともない。この装置が熱を出しているようではない。

 それなのに装置から半径十メートル以内は春のような暖かさだ。

 周囲は氷点下だというのに……

「いかがです? 総理」

 そう問いかけるエス氏に総理は振り向いた。

「いったいどうなっているのだ? この装置からはまったく発熱している様子はないが」

「如何にも。この装置から一カロリーの熱も発生しておりません」

「ではいったい?」

「この装置から半径十メートルのフィールド境界面では、熱量のある粒子は内側には入れますが、外へは出られません」

 総理はしばらく考え込んである事を思い出した。

「マクスウェルの悪魔か?」

「その通りです。この装置は周囲の熱量を奪い取っているのですよ」

「しかし、なぜこれを私のところへ持ってくる? 家電メーカーにでも持ち込めばいいではないか?」

「そんな事をしてどうなります。確かに一般家庭にこれが普及すれば、家の中は暖かくなります。しかし、熱を奪われた外は余計に寒くなる。結果、日本中が今より寒くなり作物も育たなくって、ますます食料が足りなくなります。さらに装置を買えなかった人たちには、暖房用の燃料が必要になり、ますますエネルギーが不足します」

「では、私にどうしろと?」

「この装置を大型化して、日本列島全体を包み込めるフィールドを発生させるのです。こうすれば、国全体が暖かくなります」

「そんな事ができるのか?」

「もちろんです。ただし、お金が掛かりますが」

 エス氏の提示した金額はかなり高額であったが、けっして予算に組み込めないような数字ではなかった。

「念のために聞くが、この装置を動かすために膨大な電力が必要などという事はないだろうな?」

「ご心配なく。そのようなオチではありません。単三乾電池二個で稼働します。そして一度形成されたフィールドは一年間消えません」

「それはいい。しかし、それでは今度は我が国の外が寒くなるぞ」

「総理。この氷河期の中、どの国も生き残ろうと必死です。よその国の心配をしている場合ですか?」

「んむ。そうだな」

 そして一か月後、極秘のうちに装置が製造された。

全世界が氷河期の中、日本列島だけが温かいフィールドに包まれた。

 しかし、日本だけが温かくなっては、他国から怪しまれる。

 そのために、文句を言ってきそうな国にも装置を密かに売り渡しておいたのだ。

 日本から装置を売り渡された国は、後ろめたさから他国には極秘で装置を使用したのである。

 その結果、一部の国だけが温かくなり、その他の国は熱を奪われたために余計に寒くなっていったのであった。

 装置を売ってもらえなかった国々は、とうとう背に腹は代えられず危険な原子力を使い始めた。しかし、まともに使いこなす技術のない国々が、そんなものを使って無事で済むはずがない。

 各地でメルトダウンが相次いで起きた。

 それでも、人々は原子炉の使用をやめない。

 使わなければ凍え死ぬしかないのだ。

 だが、いくら原子炉を動かしても、国全体は温かくならない。

 原子炉の排熱で、多少は氷河期も緩和されると期待したのだが。

「まるで熱が、どこかに盗まれているみたいだな」

 ある国の学者がそう呟いた。本気でそう思ったわけではないが、実はそれが正解だったのである。

 装置を稼働して一年後、唐突に氷河期は緩和された。

 いや、装置を稼働する前の状態に戻っただけで氷河期が終わったわけではないが、それでも原子炉に頼らなくても済むぐらいの気温に回復したのである。

 ただ、日本を含め一部の先進国は壊滅状態になっていた。

 装置を使っていた国々である。

 原子炉の排熱をフィールドはどんどん吸収していったために、フィールド内は大変な高温になってしまった。

 しかし、一度発生したフィールドは一年間消えることがない。

 フィールド消える直前には、どの国も灼熱地獄と化していたのである。


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