リアルワールド
いつもの変わり映えのしない朝だ。
母親は朝っぱらから愚痴を漏らし、出勤前の父親を辟易とさせている。
更年期にはまだ早いと思われるが、年取ると遠慮という物がなくなるのか、女は強くなり旦那様を圧倒する。家庭内で手前勝手に定めたルールから外れると、イライラが募ってストレスとなるみたい。
――また父さんの白髪が増えそうだな。
西田秋水は嫌気が差して、朝食もそこそこに身支度を済ませると、家を飛び出してしまった。
マンションのエレベーターで下まで降りる時、偶然にも幼馴染みの寺島行久枝が乗り込んできた。
彼女は何だか気まずそうに下を向いたままだ。
「……おはよう、行久枝ちゃん」
「…………!」
重油のような沈黙が、耳まで真っ赤になった2人の間を支配する。
――結局、寺島行久枝には無視されちゃった。
当たり前だ。中学生になってからは、お互い妙に色気づいて、昔のように気兼ねなく喋る事はなくなったからだ。
……今日、僕から喋り掛けたのは1年ぶり位……かな? キモい奴と思われなかっただろうか。
だが、秋水は心得ていた。どうすれば行久枝ちゃんと、再び仲良く話せるようになるのかを。すでにミラクル14の中でシミュレーション済みである。
学校でも、陸上部のエースにしてクラス委員長である小俣君と積極的に話をして、クラスメイトの目を丸くさせた。秋水は引きこもり予備軍で、学校も休みがち。普段は独りを好み、誰とも話そうとしていなかったのだから当然だ。
気さくな小俣君を突破口として、今更ながら色んな人達と交流を図ろうと思った。これもすでにミラクル14で大体は経験済みである。
廊下ですれ違う担任の秀島先生は、何だかメイクもバッチリで活き活きとしている。
噂によると、新しく赴任してきた若い男性教師の指導役を仰せつかったそうだ。
放課後は美術部に顔を出した後、守山市立図書館へと向かう。そう、本好きの彼女が居座った場所。
秋水は何とか彼女の痕跡を、存在証明を見出そうと頑張ったが、予想通り徒労に終わった。
肩を落とし気味の秋水は、不夜城のような明かりが灯る自宅マンションに自転車で帰宅した。
もちろん彼女が住んでいた1階の部屋には、別の家族が暮らしている。表札には杉浦という名字が……。まさか、マキちゃん? 赤ん坊の元気な泣き声が、僅かだが外に漏れ伝わってきたのだ。
一気にエレベーターで上昇し、14階にある自宅の部屋のカギを開けると、母親が嬉しそうに『お帰り~!』と言ってくれた。目尻の皺を見て、胸を撫で下ろす。どうやら機嫌は直ったようだ。
家族3人揃っての夕食を済ませて風呂に入ると、いつものTV番組に飽き飽きとしてきた。
廊下に出て、欠伸しながらトイレも済ませると、自分の部屋へと向かうしかなかったのだ。
――可もなく不可もなく、平穏無事にして平和。退屈だけど、いい1日だったな。
部屋の扉を開けると、そこには当たり前のように黒衣のヴァンパイア忍者が正座していた。




