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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第5章 V.V ヴォルテックス・ヴェロシティ
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偽りの時間


 時が止まったままの湖の上で、ひたすら秋水は彷徨っていた。

 死んだような時間が過ぎ去る中で、彼の頭の中には様々な記憶が去来する。

 

 ――だがそれは、かりそめの世界での出来事。

 精巧に作られたシミュレーションゲームの世界で、彼は馬鹿みたいに血眼になって奮闘していた事になる。


 誰もが14歳となった世界。

 

 その名も――ミラクル14……。


 可愛く若返った母親の顔、同い年の姿になっても優しく、変わる事のない愛情で接してくれた父親。

 

 嬉しそうに現場復帰を語ってくれた高田のじっちゃん。


 急成長した赤ん坊のマキちゃんは愛らしい。


 幼馴染みの寺島行久枝……は、現実ではどういった関係性で、どの位の親密度だったかな?


 一緒にデートもしたりしたけど、全てが妄想の産物だったんだ。


 それに襲いかかってきた、数々のモンスターども……。


 狼女に狂戦士兄弟、それに影男に夢魔、更に女小鬼と……、最後は悪意と疫病の二足竜まで出てきた。


 ははは、ゲームの趣旨から逸脱しすぎだろうよ!  


 ゲーム、……そうだゲームなんだ! みんな、全てがゲームの世界!  


 ただシミュレーションで疑似体験しただけだったのか!


 それでは、カゲマルは!?


 ……ヴァンパイア忍者なんて、あからさまに安易な設定じゃないか。……彼もプレイヤーの一人? それともAIが動かすキャラクターの一部だったのだろうか?  


 魔法使いティケ! あちら側の立場なのに、最後まで人間のために命がけで戦ってくれた。お尋ね者だろうが、デビルハーフでも構わない。もっともっと親密に、仲良くなりたかった。せっかく現実世界(リアルワールド)に馴染んで、これから楽しくやろうとしていた矢先だったのに!


 いや、そもそも、ここは現実世界(リアルワールド)じゃなかったんだ。


 ティケ! 君も僕が生み出した、理想を具現化した幻で、この世に実在しない人物なのか? 


 もし傍にいたのなら答えてくれ。僕に確かな物を与えてくれ。でないと僕は、僕はもう……。






 固まった白い波頭に蹴躓いて倒れた。

 琵琶湖の時間は今だ停止したままだ。

 歩きに歩き続けた末、対岸は見えてきたけど、西田秋水は起き上がれなくなった。

 心の中の揺るぎなかった物が、一瞬のうちに音を立てて崩れ去り、目の前が闇に閉ざされたみたいだ。


「誰か、僕に進むべき道を……、教えてくれ!」


 偽物の太陽を背に、秋水は顔を上げて宙に手を伸ばした。


 何もない。本当に誰もいない。


 秋水は死人ように動けなくなった。






 何か気配を感じて顔を上げた。

 風の吹き抜ける音が聞こえ、碧い空を見上げると、何か白い物が漂うように飛んでいた。


「あ、あれは! 確か……」


 固い水面から顔を起こした秋水は、再び立ち上がった。

 自慢の視力で空中の白い物へと、必死に目を凝らしたのだ。

 そこには白い毛玉のような物がフワフワ……。


「ケパ! ケサランパサランのケパじゃないか!」


 秋水の呼ぶ声にも知らんぷりで、白い毛玉妖怪は風に乗り、自由な空中散歩を楽しんでいるようだった。


「ま、待てよケパ! どこに行くんだ~!」


 彼は必死になって叫ぶと、毛玉をひたすら追いかけ続けた。

 手の届きそうな距離にあるようで、天空近くを漂っているようでもある。


「待ってくれ~!」


 抜けるような青空の元、少し駆け足のように歩き続けると、いつの間にか湖岸が見えてきた。


 霞がかった山の麓辺りに、見覚えのある何かが迫ってくる。


 



 






 


 

 

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