GM降臨
秋水は霧の中にいる白い青年を見て、ふと思った。
『――ここは天国なのかな? ひょっとすると、この人は神様?』
すると振り向きざまに蒼白な青年は言い放った。
「いいや、私は神ではない。どちらかと言えば、相対する存在かな」
――神と逆の存在……。それは悪魔? 白い悪魔と言えば……。
「ああそうか、オンラインVRゲーム『ディアブルーン』のラスボス……。あなたは、かの有名なヤマナンですね?」
ヤマナンは表情ひとつ変えずに、勘の鋭い中学生に対し、賞賛めいた言葉を贈った。
「いかにも。よく分かったね。もっとも今は電気ブラン代表、山名CEOの姿なのだが」
「山名CEO……」
ディアブルーンの運営が、いやラスボスが、なぜこんな所にいるのだろうか。世の道理をあまりに超越しすぎている。非現実的な舞台に頭がおかしくなってしまいそうだ。
「私の一人娘が、君に随分と世話になったそうだね」
「…………??」
聞き捨てならない言葉に、秋水は頭をメイスで砕かれたようなショックを感じた。
『娘だ……と?! ――ええっ!! 一人娘って誰? ひょっとしてティケの事!? いや、という事はティケはヤマナンの……、悪魔の子供なのか?』
白悪魔は黙っていても、思考を次々と読み取ってくる。分かりやすく動揺し、混乱する秋水を嘲笑うかのごとく続けた。
「そう、ティケは私と人間の女性との間にできた子供だ。つまりはデビルハーフかな」
「――何だって!」
とうとう秋水は我慢できなくなり、彼以外の人間がいない湖上で大声を上げてしまった。
「……私は人間の科学力に興味があってだね……。例えばアルミニウムに銅などを混ぜたアルミ合金はジュラルミンと呼ばれ、純粋なアルミニウムより固くて強くなるそうだ」
『一体、何をほざいてるんだ? この薄気味悪い野郎は?』
「フフッ……、それと同じように悪魔と人間を掛け合わせた場合、元の悪魔より強い魔力を持つ場合もあるらしい。これは本当にすごい発見だね」
「つまりティケの桁外れの魔法の力は……」
「デビルハーフとしての能力の発現と言ったところかな? 勘の鋭い君なら、これから私が何を目指そうとしているのか、薄々と分かって貰えるだろう。……オンラインVRゲームのディアブルーンは、近々再開される……!」
山名CEOとして人間の姿をしたラスボスは、無責任にも自分の言いたい事だけを秋水に伝えると、白い霧状の靄の中に消え去ろうとする。
「待て! ティケはどこだ!? 彼女を返せ!」
秋水は、ものすごい剣幕で詰め寄ったが、白き悪魔の上品かつ下卑た笑顔で返された。当然のごとく、目に見えない壁にぶち当たる。
「この私が、わざわざここまで出向いて来たのは、君に対する最大限の敬意によるものだと理解して欲しい。要するに、娘が世話になった感謝の意を、この場で示したかった訳だ。……正直、彼女の心を奪った者がどのようであるのか、確認したかった意味もあるのだが……ね」
「いいから……、ティケを返せよ!」
「これ以上は時間の無駄だ。繰り返すがディアブルーンは再開される。実力でここから脱出し、現実世界に戻って来たまえ! 君なら、おそらくできるだろう」
「何ぃ?! じゃあ、ここは一体どこなんだ!?」
「ハハハッ! 今更か……。 ここは老若男女が14歳になる世界。『ミラクル14』というシミュレーションゲームの世界だよ」
「う、嘘だろ!? 僕は今までゲームの中にいたのか! でも、いつから?」
「駅前からだよ。愚かにも、そんな事にも気付かなかったのかね?」
「じゃあ、じゃあ……! 今までの事は全部……!」
「その、まさかだよ……」
「…………………………!!」
人を超越した白き存在は、別れの言葉と幻のような高笑いを秋水に残すと、ミラクル14から完全に消え去ったのだ。
現実と寸分違わない琵琶湖の霧は晴れ、止まった世界に中学生は、たった独りで取り残される。
時折吹く風が、どこまでも冷たく感じられた。




