表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第5章 V.V ヴォルテックス・ヴェロシティ
72/79

臨界突破


 秋水はカゲマルから、ドラゴンメイスに付けた竜涎石の役割について聞かされた。

 

 無尽蔵の魔力を生み出せる、希代にして希有の魔法使いティケ。

  

 強大すぎて手に余る、自らの魔法を今までセーブする事ができたのは、魔力を適度に吸収する効果を持つ竜涎石のおかげでもあったのだ。

 魔力を抑制する術を失ったティケは、今や制御棒をなくした原子炉ニュークリアリアクターに同じ。

 ――臨界超過に達して暴走状態。……周囲のあらゆる物を超自然的な力で破壊し尽くすだろう。



「……ティケ!!」


 西田秋水はカゲマルを制止して、すぐ戻るように伝えた。そのまま横転した2トントラックの陰に隠れる。


「秋水殿、その気持ちはよ~く分かるが、もはや我々にはどうする事もできないのだ」


「逃げるって、オイ! 自分一人だけで逃げられっか! 街の人は? クラスの皆は? 家族は? もう、どう足掻いても逃げ切れないんだろ?!」


 悲壮感を隠しきれないヴァンパイア忍者の長髪と襟巻きが、嵐のようになってきた突風のなすがままとなっている。


「…………」


「カゲマル、最後のお願いだ。僕をティケの所まで連れて行って欲しい」


 気圧の関係なのか、俄に空は灰色に濁り、渦巻く風の中心には舞台となった南守山中学校……、あの悪意と疫病の二足竜とディアブルーン最強の魔法使いが今も破滅的な戦いを続けているはずだ。

 西田秋水は、涙と雨風にグチャグチャとなった顔で、なおも続けた。


「お願いします……、カゲマル……! これほどの魔力が解放されたら、ティケのMPは間もなく0になる」


「秋水殿……」






   ✡ ✡ ✡






 目も開けていられないような、つむじ風の中心に怪鳥音が聞こえてくる。そこに禍々しいワイバーンはいた。

 両翼は強風に翻弄され、ハーケンのごとくビルに打ち込んだ4肢の爪で何とか地面に巨体を繋ぎ止めている状態だ。

 ティケは自ら湧き出してくる魔力を、何とかコントロールしようと必死に抵抗を重ねていた。

 

「……もうダメ! 私にはこの魔力を抑えきる術はない」


 魔法円の前に跪くティケは、懐からケサランパサランのケパを取り出すと、そっと風に乗せた。


「ティケ、最後マデ、諦メルナ」


「ケパ、あなただけでも!」


 白い毛玉妖怪が見えなくなると、青白く発光する魔法使いは立ち上がり、ワイバーンの方へと向かった。


 逆巻き、溢れ出す嵐のような魔力を伴った小さな魔法使いを前に、翼を持つ竜は炎ような眼を細めると、更に紅いマグマのようなドラゴンブレスを放つ。

 すると紅蓮の炎がティケの体を襲う前に、見えない壁のような物が全てを遮断した。そう、すでにワイバーンは巨大な球状の結界に閉じ込められつつあったのだ。


「可哀想だけど、あなたは道連れよ」


 ティケは両手を胸に当てると、余りある魔力の一部を使い、瞬間移動をかける魔法の呪文(スペル)を古代語で詠唱し始めた。


「最後の場所は……、そうね、私のお気に入りの美しい風景」


「さようなら、皆……ありがとう」


「……ありがとう、大切な人達……」


「秋水…………。またどこかで会えるといいね」



 魔法使いとドラゴンを包む、白い満月のような結界が渦巻く嵐の中心に浮かび上がると、眩い光を放ちながら収縮を始めた。



「……ティケ――――――――――――――!!」



「――!! ……秋水?!」


 制服に身を包んだ銀髪の魔法使いは、確かに聞いた。

 建造物が崩壊し瓦礫と化する喧騒の中でも……。

 風に掻き消されそうな、自分を呼ぶ声が、確かに聞こえたのだ。


 美しい魔法使いの頬に、更に麗しき宝石のような涙が伝い落ちた。



 


 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ