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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第5章 V.V ヴォルテックス・ヴェロシティ
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乾坤一擲


「闇の淵より、その研ぎ澄まされし光の刃をここに顕せ! 出でよ、人狼剣!」


 ドラゴンメイスを地に刺すティケが、魔法円の前で呪文(スペル)を唱えると、武器として過剰な装飾が施された剣が暗黒の境界から浮かび上がってきたのだ。

 秋水は喜び勇んで柄を握り締めると、切っ先から刀身までの刃こぼれを確認した。鋭い切れ味を誇るライカンスロープの剣は、彼の期待に応えてくれそうだった。


「気をつけて、秋水! いっそのことカゲマルに任せたら?」


「いや、僕が……俺が行くよ!」


 タンク酒を平らげたワイバーンの方を見ると、いまだ高級車を枕にイビキをかいている状態。やはり秋水の、酒を飲ませて眠らせる作戦は、シンプルだが的を得ていたようだ。

 

「覚悟せィィィー!」


 重い剣を両手で掴んだ秋水は勢いに乗り、無防備なドラゴンがうなだれる国道へと突進していったのだ。そのまま走り抜けると、ブルーの瓦っぽい鱗に覆われた首筋に狙いを定める。近くまで寄ると、やはり山のようにデカい怪物だ。

 

「秋水殿……! どうだ……、このままいけるのか?」


 カゲマルの要らぬ心配をよそに、上段に振りかぶった大剣が放つ刃紋の一閃が、ワイバーンの急所目がけて叩き落とされたのだ。


「おりゃあああ! ……ええっ?!」


 秋水の渾身の一撃が、ワイバーンの長首に吸い込まれるように打ち込まれた瞬間、時間が凍り付いた。

 威力抜群であるはずのライカンスロープの剣は、鈍い音と共に鉄の重さを失った。


 何と人狼剣は、いとも容易く根元から折れてしまったのだ。刀身が回転しながら背中を越えて街路樹に突き刺さる。

 その時、寝ぼけたワイバーンの巨大な翼の羽ばたきが、竜巻のごとく秋水に襲いかかってきた。


「うわあああ!」


 風圧に10メートル以上飛ばされた中学生は、全身が擦り傷だらけになりながらも、警戒中の警官達に保護されたのだ。




 ――付近の駐車場で機会を伺っていた陸自の最新鋭16式機動戦闘車に動きが見られた。


「……男子中学生が今、警察に確保されました。周りも避難済みです」


「山口車長、今がチャンスです」


「よし、発砲許可は下りている」


 装填手は、主砲に特てん弾と呼ばれる弱装弾を装填済みであった。

 砲手は、動かなくなったワイバーンの弱点と思われる部位に照準する。停止している目標に対しては、訓練時よりも容易に狙いを定められる。


 日本のシステムらしくない、何と思い切った早い決断だろう。迷う事もなく16式機動戦闘車の105㎜ライフル砲が火を噴いた。

 周囲に閃光と爆風を伴う轟音が響き渡ると、脆弱な窓ガラスが破壊され、ヒビが入る。


 ……それはとても呆気なかった。


 高速で飛び出した弾体は、ワイバーンの長い頸部に狙いを澄ましたかのように命中すると、鎧のような鱗を切り裂き、弾け飛んでいった。


 その後、胴体から数メートル離れた洋菓子店の店舗に、枕にしていたドイツ車ごとワイバーンの頭部が落下してきたのだ。


「うわっ?! 何がどうなったんだ?」


 警官らに引き摺られるようにパトカー内に押し込められた秋水は、爆音と衝撃に五感がやられて麻痺状態となっていた。


「……やったのか?」


 土遁の術の応用で遮蔽物に身を隠していたカゲマルとティケ。2人は着弾で破壊された校舎の埃と、硝煙の煙がたちこめる幹線道路の視界が回復する時を、ひたすら待ち続けていた。

 やがて風により煙幕が晴れると、路上には鯨のような首なしワイバーンの巨体が、少し破れた翼と共に小山のごとく横たわっていたのだ。

 

 よく状況は飲み込めていないようだが、遠方の建物で逃げもせず見物していた野次馬どもから拍手と共に、歓声が次々と湧き起こってくるのが感じられた。


 ティケはドラゴンメイスを杖に立ち上がり、憂いを帯びた美しい顔にかかる銀髪を払って呟いた。


「いいえ……、ワイバーンはハイレベルの中ボス。安心するのは、まだ早いわ」


 


 

 

 


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