14歳の秘策
秋水は自分が考え出した竜退治の方法を、ヴァンパイア忍者と魔法使いの少女に向かって真剣に説いた。
「君らはヤマタノオロチ伝説を知っているか?」
「いや、知らん。見た目は忍者だが、俺はディアブルーン出身だ」
「……東洋のドラゴンスレイヤーの物語かしら? 守山図書館で借りた本の中に見たような……」
拳で手を叩いた秋水は、嬉しそうにティケを指差した。彼女の寄り目が大きくなり、茶色い瞳が強調される。
「ほぼ正解! 日本の神話に登場するスサノオノミコトという勇者が、ヤマタノオロチと呼ばれる八つ首の大蛇だか、え~……竜だかの怪物を倒した話だ」
カゲマルの興味なさげな、おざなりの態度にも屈せず、秋水の説明には更に熱が入る。
「重要なのは勇者がモンスターを倒した方法なんだよ! カゲマル、分かるか?」
「う~ん……」
「秋水、勿体ぶってないで、さっさと教えてよ」
ティケの懇願するような眼差しに、ニヤリとした秋水は、犯人を追い詰めた探偵のごとく自信に満ちた口調で話し始める。
「スサノオがヤマタノオロチを無力化させるのに使ったアイテムがある! ……それは酒だ!」
『酒ぇ?!』
「そうだ、スサノオはヤマタノオロチに酒を飲ませて、怪物が酔っ払って寝ている隙にその首を全部刎ねて倒したのだ」
「結局、詰まるところ騙し討ちかよ」
「でもヒュドラを油断させて倒すなんて、素晴らしいアイデアだわ!」
西田秋水はティケの好感触な反応に鼻息を荒げた。
「そうだろ! そこで、あれを見てくれ! 中学校の近くにある酒の大型チェーン店を!」
ティケとカゲマルが秋水の指し示す方向に視線を移すと、確かに大きなリカー店が存在しており、スタッフ総出で避難と閉店準備を進めている最中だった。
「まさか秋水殿、ワイバーンに酒を飲ませて倒すつもりか」
「そのまさかだ。ドラゴンもオロチも酒に弱いはずだ」
「ホントかよ~」
ヴァンパイア忍者は、長髪に隠れ気味の顔で天を仰ぎ見た。
「さあ、ティケ。奴の近くにまで酒を運ぶ魔法はあるかな?」
「まあ……あるにはあるけど……」
「では早速、実行に移すぞ!」
謎の中学生男女と忍者装束の3人が、いきなり酒店内に飛び込んできた。そしてワインや日本酒、ウィスキーを物色した後、次々と手当たり次第に担ぎ出し始めたのだ。
「わわっ?! 何だ、あんたらは? どさくさ紛れの暴徒か? 混乱に乗じた酒泥棒か?」
逃げ出す準備に忙しい、責任者と思われる店員が、迷惑そうな表情で秋水をどやしつけた。
「全校生徒の……いや、この街の命運が掛かっているんです! 店長、どうか協力して下さい!」
ドラゴンメイスを振るうティケは、焼酎の量り売りのために置いてある巨大ステンレスタンクに向かって呪文を詠唱し始めた。
「大地を司る地母神よ……。我にその力を与うる時きたれり! 重力操作魔法!」
「うわあっ!」
店長は目の前で起こった信じられない出来事に、腰を抜かさんばかりに驚いた。店内に鎮座する金属製の重い酒タンクが天井を突き破り、空中をフワフワと浮遊していく光景を目撃してしまったからだ。
「カゲマル! こいつの蓋を開けてくれ!」
「よし、任せておけぃ! 忍法、斬鉄抜刀!」
南守山中学校前に落下した巨大ステンレスタンクは、カゲマルの忍者刀の一閃で缶詰のように上部が切り飛ばされた。
遠くで学校占拠中のワイバーンに向けて秋水は、シングルモルトの瓶を両手に掲げながら挑発する。
「そらそら! ワイバーン様は、どんなお酒がお好きですか?!」
一方で高速で駆け回るカゲマルは、届くはずもない屋上に向けてワインやビール、ウオッカ、テキーラの瓶を手裏剣代わりに投げ続けた。
そうしているうちに校門前のアスファルトは、赤や黄色、琥珀色に染まり、ガラスの欠片と一緒に弾ける泡も迸った。
秋水は拳を握り締めた。……1500リットルは入ってそうなステンレスタンクを中心に、芳醇なアルコール臭が風に乗り付近に漂い始めたからだ。




