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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第5章 V.V ヴォルテックス・ヴェロシティ
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これからの人、これまでの者


 マンションの14階から眺める守山市の街並みは、見慣れた風景が広がっている……はずが全然違っていた。

 これまで幾度となく繰り返しのように感じて、口にも出してきた事でもあるが『これは本当に現実なのか?』である。


 目を疑う大きさを誇る西洋風のドラゴン『ワイバーン』が突如、降って湧いたかのように現実世界(リアルワールド)に邪悪な姿を顕現した。


 朝方に琵琶湖の湖上に位置する多景島でしばし翼を休め、湖水をたらふく飲んでいるところを多数の人間に目撃され、すでに日本中で大騒ぎとなっていたのだ。そして今現在、巨大暗黒竜は人々を嘲笑うかのごとく南守山中学校の上空をゆっくりと旋回しながら街を蹂躙している。


 標的はおそらく在校中の魔法使いティケである事は疑いようもなかった。そうでなければ、こんなありふれた地方都市の一つにドラゴンが狙いを定めてくる訳がない。


「あれは……! ディアブルーンのクリスタル・アイランドステージに君臨する難攻不落の中ボスじゃないか! なぜここに?! 嘘でしょ!? まだ夢っ?!」


 秋水が情けない台詞を言い終わらないうちに、ワイバーンは喉の奥から燃え盛る火球(ファイヤボール)を吐き出した。


「うわっ! ヤバい!」


 その固体とも気体ともつかないプラズマ状の火の玉は、大きな弧を描きながら市内に落下して爆発した。マンションのベランダから推測するに、命中した場所は……ガソリンスタンド。

 この前ティケと2人でデートした、カフェ併設のお気に入りだった場所だ。

 惨禍は留まるところを知らず、ガソリンに引火して炎上し、火柱と黒煙を天高く巻き上げた。落下地点から何キロも離れているはずなのに、光が熱く頬を刺し、衝撃が心と体を貫く。


 一体何人の人間が紅蓮の炎に巻き込まれて犠牲となったのだろう……。まるで空爆後のような惨状に、秋水と母親はただただ狼狽えて呆然とするしかなかった。


「マジかよ……。これは映画か何かじゃないのか?」


「秋水! まだそんな事言ってるの? いいから早く部屋に隠れてなさい! こっちにも飛んでくるかもしれないわよ!」


「母さんこそ今すぐにでも避難した方がいい。車で逃げるか……、いや大渋滞に巻き込まれるのがオチだ」


「……?」


 ベランダからリビングに戻った西田秋水は、自分達の街をリアルタイムで映すTVの中継を見ながら、再び出てゆく準備に取り掛かったのだ。

 母親は青ざめた顔でブツブツ独り言を呟く息子の肩を掴むと、心配そうな表情で叫んだ。


「ちょっと、あなた……! こんな時にどこ行くつもりなの?」


 諦観に満たされた秋水は思い詰めたような、それでいて試合前の球児の使命感にも似た眼差しで、精一杯の優しい顔を作った。


「母さん、俺……、行かなきゃ……」


「行くってどこに?」


「ティケや行久枝ちゃん、それにクラスの皆がいる所へ……」


「まさか怪獣がいる学校に?! 何をしに? 危険だわ! 絶対にダメ!」


「俺なんかが行っても、何にも役に立たない事くらい分かってんだ……。でも……、何でだろう? 根拠はないけど、自分だけにしかできない事があるような気がしてさ……」


「秋水! 行かないで!」


 14歳の姿をした母親は、秋水を背中から抱き締めた。身長が低いので幼顔は、まるで妹のようでもある。


「行っちゃダメ」




「母さん……、俺……」


「……友達を助けに行くのね。……ああ、照れるけど今なら言える! 秋水、本当に愛してるわ……」


 背に暖かみを感じた秋水は、何も答えずに頷いた。以前、同じ台詞を聞いた時はいつだったかな。

 後ろから見えない彼の表情は多分、笑顔だったはず。


「母さん、俺が帰るまで父さんと、どこか安全な場所に避難してて」


 母親は自分より一回り大きくなった息子の顔を見ると、何も言えず大粒の涙を溢れさせた。


「俺、行ってくるよ。心配しないで、きっと解決して戻ってくるからさ!」










 

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