真冬の朝の夢
「秋水……、助けて……!」
ここはどこ? 夢の中? それともオンラインVRゲームのディアブルーン……なのか?
ぼんやりとした頭の中でも、ここは現実世界ではない事がはっきりと分かった。
ボーイング787と同じくらいの大きさの羽ばたく有翼型モンスターが、はるか京都を飛び越えて琵琶湖の西岸から守山市に向かって揚々と飛来してきたのだ。
怪物は何を思ったのか比叡山を通過する刹那、延暦寺に真っ赤なドラゴンブレスを放射した。ユネスコ世界文化遺産は、織田信長による比叡山焼き討ち以来、約450年ぶりに大炎上する惨禍に見舞われてしまったようだ。
ギラつく紫水晶のような鱗に蝙蝠のような翼、腕はないが角の生えた鰐の頭に鋭い牙の並ぶ大口。紛う事なきファンタジー世界のドラゴンそのものの姿に多くの目撃者は、その場にひれ伏すばかりだろう。
見ただけで魂を奪い去られてしまうような、燃え盛るルビー色の眼光の先には秋水が通う学校、南守山中学校の校舎に集う生徒達の姿が。
「やめろ! どうするつもりだ!」
西田秋水は、部屋の壁を思い切り拳で叩いて目が覚めた。
「痛――っ!!]
飛び起きると全身汗びっしょりで呼吸も荒くなっている。擦りむいた左手の甲で目を擦りながら、見たくもない時計を手に取ると9時を過ぎていた。……もう遅刻決定。
「母さん……」
リビングに行くと、14歳にしか見えない母親が困ったような、それでいて怒っているような慈愛に満ちた顔をして馬鹿息子を迎えてくれた。
「こら! 学校には真面目に行きなさい」
「…………」
「昨日から思い詰めたような表情をして、部屋にこもりっきりだったから心配したのよ」
幼顔になった母親の口から発せられる言葉に、不機嫌と倦怠感の化身のようになった秋水は、目を閉じたまま聞き入っていた。
「最近、休みがちだった学校に、また通うようになって母さん安心していたのに」
「…………」
「それもこれも引っ越してきたティケさんのおかげだと思っているわ。彼女のおかげで行久枝ちゃんとも、また一緒に登校するようになったんでしょ?」
「うるさいよ……」
「いいから黙って聞きなさい。父さんも昔、仕事に行き詰まって体調を崩した事があるから、秋水の学校に行きたくなくなる気持ちもよく分かるんだって」
「つらい時はつらいって言っていいし、長い人生ちょっとくらい一息ついて自分と向き合うのもいいと思うの」
「でも、いつまでも腐ってちゃダメよ。父さんも母さんも秋水の事を信じてるから」
無反応の秋水は部屋に引きこもると思いきや、ゆっくりと登校する準備に取り掛かった。本当に学校に行くかどうかは分からないが。
ちょっと安心したような表情になった母親がTVをつけると、画面いっぱいに見覚えのある風景が。
窓を開けると救急車やら消防車に加え、パトカーのサイレン音までもが街中に響き渡っている事実に、今更ながら気が付いた。
「えっ? 何なの?」
秋水は急いでスマホのトップ画面を確認する。
――自分達の街が大変な事に。
TVの液晶画面には遠距離から動画撮影された、見た事もない伝説上の化物の黒い影が。これは映画かゲームの宣伝用に作ったCGかARか何かだろうか?
「え……、マジかよ!?」
「……秋水! 見て、外が大変よ……」
ベランダから外部の様子を伺った母親は、恐怖で声を引きつらせた。
同時に家の固定電話が鳴り響き、2人のスマホに一斉にメールと通話を促す嵐が吹き荒れ、狂ったようなバイブレーションが止まらない。




