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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第5章 V.V ヴォルテックス・ヴェロシティ
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運営の決断


 東京都新宿区中央線沿いにあるビルの最上階に、かつてオンラインVRゲーム『ディアブルーン』の運営を行っていた株式会社・電気(エレクトリック)ブランの本社がある。

 霧雨が降りしきる街は、紫がかった照明を落とし込み、絶え間ない幹線道路の車の流れを幻想的なものへと変貌させる。

 

 文字通り若返りを果たした社員を抱える世界的なIT企業は、今日も電子の流れをその手中に収めんと画策し続けているようだ。

 黒基調の洒落たスーツに身を包んだ電気(エレクトリック)ブラン代表の山名CEOは、デスクの専用端末上に絶えず計上される数字のデータに目を通しながら、若くして老成された古河専務に語った。


「日本の総人口が一律14歳に統一されたところで、政治・経済共に壊滅的な打撃を与えない事が判明したな」


 14歳の見た目となった古河専務は、山名代表より年上に見えるように老け作りも行っていた。ビジネスを取り仕切る立場においては、便宜上こちらの方が都合がいいのだ。


「私には分かりません。なぜ14歳なのか。人々を14歳に統一した目的も理由も……」


 古河専務の言葉に、まるで演技でも披露しているかのような、不自然過ぎる表情を作る美男子が続けた。


「目的と理由? そんな事を常日頃から気にしているのか、君は」


「……当然です。人間の行動には必ず何かしらの目的とされる事象や、それに至る理由が存在するはずなのです」


「本当に、くだらないな」


「はい?」


「いや、古くからの常識や理論に囚われて凝り固まっている。人間の行動原理から飛躍しきれていない」


「それは当たり前です。私のような企業の運営をまとめて管理する立場の人間には、流れから決して逸脱しない能力が求められているのですから」


「そうなのか。では常識人たる君に伝えておこう。なぜ14歳なのか。以前から疑問に思い続けて、一番知りたがっていた問題でもあるのだろう?」


「はい、いつか代表の口から説明してくれる事を待ち望んでおりました」


「君らしくもない。交渉術こそが君の持ち味だったのでは?」


「はっ! その結果、今に至ります」


「ははは、いいだろう。よかろう、説明しよう。……14歳にこだわる理由など存在しない」


「ええ!? 今、何と……」


 薄い口髭の古河は、自分の耳を疑うような台詞を山名代表が口にするに至り、無駄に大きな目を更に大きく見開いた。


「聞こえなかったのかね? 別に14歳なぞ、単なる思いつきで、本当はどうでもよかったのだ」


「そ、そんな……、信じられない。それほどまでに、いい加減で適当な理由だったのですか!」


「あえて言うなら14歳は大人と子供の中間で、魂のあり方においては過渡期の最も光り輝く時期であるからかな。()()はそういった魂を常に欲している」


「…………」


「面白おかしければ、それでよかったのさ。――ところで古河君!」


「……はい」


「ゴブリンによる、数に頼った作戦も失敗に終わったようだな」


「誠に申し訳ありません。戦力の逐次投入という、最も避けるべき兵法を省みた結果なのですが」


「満を持して中ボス級を参戦させるぞ。そうだな、『ワイバーン』あたりでどうだ」


「そんな事をすると、もはや隠密では済まされません。SNSで存在を一気に拡散される危険性が!」


「もはやコソコソ隠しきれない。超常現象が受け入れられつつある異常世界だ。特に問題あるまい」


「しかし、ワイバーンともなりますと、起こりうる被害が計り知れません。私は強固に反対の立場を取らせていただきます」


「あいつを連れ戻すためには、仕方ないのだ」


「もう、あなたには付いてゆけないかもしれません」


 精神的な重圧に耐えられなくなった古河は、生活感のない役員室から退出しようとドアの方へと向かった。


「古河君……、息子さんの魂が今だ、閉じてしまったディアブルーンの世界に取り残されたままなのだろう?」


 背中でその言葉を聞いた古河は、苦悶の表情を湛えたまま、声にならない呻き声で立ち止まったのだ。


「…………悪魔め」


「……悪いが聞こえているよ。私は()()()なのでね」


「自分は……わざと聞こえるように言いました」





   ✡ ✡ ✡



 


 秘書室に呼ばれたのは、会社の制服を窮屈そうに着こなした派手目の美しい女性。スリーサイズのうちBとHがあまり合っていないようでもある。場違いな雰囲気を醸し出す彼女に、多少イラつく古河が強めの口調で述べた。


「君に失地回復のチャンスが訪れたぞ。どうだ、受けてみるか?」


 サキュバスは考えるでもなく、その場で静かに即答したのだ。


「ええ、ちょうど退屈していたところでしたわ……古河専務」


「そうか、やってくれるか。いや、やるしかないな君は……」


 整理されたオフィスに、不穏な黒い影が消える頃、古河は独り溜め息を漏らすしかなかったのだ。








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