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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第4章 ゴブリン軍団
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もう一度ティケと


 まるでマラソンのようだった。


「どりゃあああ!」


 次々と蟻のように迫り来るゴブリンの軍団に、秋水は死に物狂いでライカンスロープの剣を振るった。アシストも何もない鉄剣の重みは徐々にだが、なけなしの体力を奪い時折、反撃のキツい一発を食らう。


「ギェーッ!」


 敵の攻撃は様々だ。棍棒に槍、戦鎚に短剣。だが所詮は短躯のゴブリン。圧倒的に攻撃のリーチが長い秋水の斬撃の餌食となる。スピードが命の奴らが、わざわざ重い甲冑を身に付けて鈍重となり、自らのアドバンテージを()()にしているのは、なぜなんだろう。

 数にモノを言わせた波状攻撃のみで、戦術もくそもあったものではない。

 多くの斬り伏せられたゴブリン達が、ただの光るポリゴン片となって現実世界(リアルワールド)から消え失せてゆく。モンスターとはいえ女性型なので、さすがに哀れみの情まで芽生えてくる。


「秋水! 気を付けて!」


 ティケの自由を奪ったボーラ攻撃が四方から飛んでくる。


「なんの!」


 回転する分銅付きの縄は、卓越した切れ味のライカンスロープの剣で切り裂かれた。


「秋水にーたん!」


 マキちゃんの叫びと同時に敵が投げつけてきた斧を、奪ったゴブリンの小さな盾で防いだ。


「うがっ!?」


 がら空きとなった背中にデブゴブリンが取り付いてきてバランスを崩した。それを機に大量のアマゾネス・ゴブリンが山のごとく秋水の頭上に降ってきて圧迫。そのまま押し潰される。

 スーパーで売ってる10㎏の米袋が、どんどん頭から全身に堆く積み上げられてゆく感じがした。

 超重い。もう、まともに息もできない……、もはやこれまでか……。

 ごめんよ、ティケ……、それにマキちゃん……。


「……音響衝撃魔法(ソニックブーム)!」


 薄れゆく意識の中、誰かの声が聞こえたような……、ティケなのか…………。




   ✡ ✡ ✡




 守山駅から程なく離れた場所にコーヒーショップのチェーン店がある。

 値段も手頃だし時間帯によっては、とても静かなので西田秋水にとって憩いの場所であり、結構お気に入りの場所となっている。最大の欠点はガソリンスタンドの併設なので、ムードもへったくれもないところだ。


 Sサイズのブレンドコーヒーの香りをしみじみと喫しながら、秋水はミルクの入ったポーションの中身を黒い液面へと流し込んだ。瞬きを終える頃には、一度沈んだ白が黒を不可思議な円形で覆い隠した。


「……破れたマキちゃんの服は弁償したけど、ちょうど似たのがあってよかったな」


「ええ……。お母さんは、『引っ掛けて破けちゃったのなら、そのままでよかったのに』って申し訳なさそうにしてたけどね」


 破れ裂けた自分のブラウスの代わりにマキちゃんの赤いカットソーを着たティケは、タピオカの入っていないミルクティーを細いストローで飲んだ。爽やかな笑顔のティケとは裏腹に、お疲れ気味の秋水が続ける。


「あんな体験をさせちゃった。マキちゃんにトラウマが残ってなければいいんだけど……」


「それは大丈夫! 私が暗示魔法(サジェスチョン)で怖い記憶だけ消したから」


「都合の悪い記憶を消し去るなんて……、ゴブリンより君の方が恐ろしいよ、マジで」


「そうかしら? 私の事が怖いの? こんなにカワイイのに?」


 テーブルを挟んで向かい側に座るティケ様が、冗談とも本気ともつかない台詞をその口からこぼされた。前のめりとなってアップになった美しき魔法使いの顔は、曇りなき笑顔のままである。


「……ティケ」


「……はい? なあに秋水?」


「君、ワザと本気を出さずにダメージを受けただろ?」


 魔女の笑顔というものがあるのだろうか。


「うふ! バレちゃったかな!?」


「当たり前だ! 高レベルのティケが、ゴブリンごときに後れを取る訳がない」


「ゴメンね。ディアブルーン以来、久しぶりに守られてみたかったから……」


「そのために、わざわざ痛い目に遭ったというのか」


「でも本当にカッコよかったよ、本気の秋水は。思わず惚れ惚れしちゃった!」


 ティケは遠い目で大袈裟な仕草というか、ゲームの感動パートのように両手を大きな胸の前で組んだ。


「今ならキスできるよ」


「えぇ!?」


 急に桜色の唇に視線が集中する。うっとりと彼女の両目は閉じられたままだ。

 まさかそんな……。こんな衆目の前で……。


「今ノハ、心ノ声ヲ代弁シテヤッタノサ」


 ボディに穴の開いたケサランパサランのケパが、ティケの頭上にひょっこり現れた。


「うわっ!」


「ちょっと、ケパ! 貴重なデートの時間を邪魔しないでよ」


「ははは……」


 少し残念に思った秋水の脳裏に、ある事が思い出された。


『そういえば、次は寺島行久枝さんとの、よく分からないデートの約束があったんだっけ……』


 またこんなハードな展開が待ちうけているのだろうか。

 秋水は若干引きつった笑顔を、ディアブルーンのヒロインに捧げたのだった。

 

 


 











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