ティケのピンチ
ティケとマキちゃんの救出に向かうためには、まず最大脅威のLサイズ・ゴブリンを倒さねばならない。現実世界で無力な中学生の秋水は、いくら魔法の剣と盾と鎧を装備しているとはいえ、筋書き通りであるゲーム世界のように勝てるかどうかは分からない。
巨体の敵を見据えると、鋭いギザ付きの刃がひんやりと自分の首を狙っているようで、首筋から背筋に至るまで薄ら寒くなってしまう。
正に殺るか殺られるかだ……。豊かな想像力は、この期に及んで根拠のない勝利確信より不確定な激痛敗北の方に働いてしまうのだ。
それでも集中力のおかげで、どうにかパニック状態だけは避けられた。今更ながら、どこか体育会系の運動部に所属して普段からもっと鍛えておけば、との思いが巡る。
……あれ? 今の僕は何をやってんだ? ゲーム中? コスプレしてゴブリンと戦ってるのは本当に現実なのか?
急に冷静になって、やけに重いソロムコの盾とライカンスロープの剣の隙間から緑色の殺意が正確に見極められるほどになった。
さっきのヴァーチカル・スラッシュの一撃で、ゴブリンの盾に大きな亀裂ができている。秋水が出せる魔法の技は残り一回だけ……。
「コイツをコピーできるものなら、やってみせろ!」
重い盾を捨てた秋水は、一度の打ち込みに全てを掛ける。腰だめに剣を構え、型を儀式のように整えた。
「フラックス・マッハ・ストローク!」
お決まりの掛け声が響くや否や、敵の盾を目がけて突きのポーズのままスライディングをかまし、超高速で懐に飛び込んだ。
「ゲッ!」
タックルのような体当たりの後、高周波の金属音とスパークが散ったかと思うと、ライカンスロープの剣は盾の割れ目に深々と突き刺さって勢いを止めた。
「まだまだ! 押せ、押せ、押せ、押せ、押せ、押せぇぇぇえええ!」
秋水は諦めず、魔法による光の残照に包まれている間も力尽くの猛追をかけたのだ。
敵もギリギリまで力比べをするように踏ん張る。化物の足裏から煙が立つと、剣から発せられる蛍光の粒子が徐々にだが消え失せてゆく。
「どりゃああああああっ!」
「ギャッ!?」
ゴブリンの丸い盾が真っ二つに裂けたかと思うと、決壊したダムの貯水のように怒濤の剣先がせまり来る。見事、チェーンメイルごとゴブリンの体が串刺しになるのを、秋水はブレない視覚で捉えた。
「…………!」
さすがの百人隊長ゴブリンもHPを一気に0まで削り取られたようだ。悔しげな表情のまま、剣を落として倒れると、眩いポリゴンの塊と化して砕け散った。
「はぁ、はぁ……。やったのか?」
長剣を杖のように突いて振り向くと、ゴブリン軍団は恐れを成して引き下がった。その割れた群れの向こうに、秋水は目を疑うような光景を目の当たりにしたのだ。
「秋水~!」
何とティケとマキちゃんがアマゾネス・ゴブリンのボーラ使いにより、再びロープで絡め取られていたのだ。特に負傷したティケの方は巨大女郎蜘蛛の巣に引っ掛かったように、グルグル巻きにされていた。
「きゃあああ!」
敵意剥き出しのゴブリン達は、ここぞとばかりにティケの上着を引っ張り、無惨にも引き裂く。中学生らしからぬボリュームの胸が、素晴らしいデザインの純白ブラごと見えてしまった。このままではミニスカの方も無理矢理、奪い取られてしまうのも時間の問題だろう。
「いやあああ! にーたん!」
手足を縛られたマキちゃんにまで手を掛けようとする鬼畜ゴブリン達に、ふらつく秋水の怒りは頂点にまで達したのだ。
「やめろおおお!」




