初ダメージ
「ゲッゲッゲッ……!」
通常のアマゾネス・ゴブリンより一回り以上大きく、人間の背丈を上回る。ノコギリ状の大剣、巨大な円盾、鉄兜、チェーンメイルを装備しており、無駄に巨乳。チャラチャラ鳴るメイル同様、腰までの縮毛を無造作に振り乱していた。
聞き取れないような声で周囲に命令を下していることから、百人隊長と思われる。
「おいおい、ティケ、こいつは何ていうんだっけ?」
「Lサイズ・ゴブリンでいいんじゃない]
Lサイズのゴブリンは、横にいたSサイズ・ゴブリンの首根っこをひっ捕まえると、何と秋水の方に向けて力任せに投げつけてきた。
「ギィィィー!(涙)」
「うわっ!」
剣士の秋水は、向上した反射神経頼りにライカンスロープの剣を正面から振り下ろした。防具ごと上下半身に真っ二つとなったゴブリンが床に転がり、やがてポリゴン片となって散った。緑色した奴なのに、人間っぽく体には赤い血が流れており、秋水の剣と鎧を紅に染めたのだ。
「くそぉ、何て奴だ! ティケ、マキちゃんを連れて何とか脱出してくれ!」
「あまり無茶しないで! 秋水!」
在りし日におけるディアブルーンでの活躍のように、何だかイケる気がしていた。秋水は上段に長剣を構えると、グッと力を込めて3度目の魔法技を出すモーションをキメた。
「食らいやがれ! ヴァーチカル・スラッシュ!」
剣士が繰り出す光を帯びた垂直方向の波動は、一直線にLサイズ・ゴブリンに向けて放たれた。
「ギャギャ!」
レベル的に秋水と互角と思えるゴブリンは、左腕の巨大な盾を前面に押し立てると、秋水が放つ渾身の一撃を防御体勢で、まともに浴びた。
「どうだ、盾ごとやったか!?」
敵のHPを削ぎ落とし、大ダメージを与えたと確信したのだ。そう声を上げた瞬間、秋水の目の前にノコギリ状の大剣の刃先が閃光のようなスピードで水平に駆け抜けた。
「ぐわッ!」
すぐそこに火花が散って鉄粉が眉間に刺さった。何という途轍もないリアルさ。極めてギリギリだったが、何とかソロムコの盾を滑らせ、斬首を狙う剣先のベクトルを斜めに逸らせたのだ。
勢い余って転がり伏せる秋水に対し、ティケからの声が届く。
「気を付けて! そいつの得意技は首刎ねだから! しかも……!」
「…………!」
全身の筋肉が強張って、もはや声も出せない。
なんという事だろう。怪物の無慈悲な攻撃の矛先は、マキちゃんにも向けられた。見覚えある碧い輝きを帯びた波動が剣先から垂直方向に発せられた。
これは……ヴァーチカル・スラッシュ!?
「マキちゃん! ダメ、下がって!」
ティケは腕をクロスさせると防御も何もなしで攻撃を受け止めた。銀髪の毛先や、服の一部が切り刻まれて宙を舞う。膝立ちに崩れた背後にはマキちゃんが泣きそうな顔で現れたのだ。
「ティケ! マキちゃん!」
こんな事は初めてだ。傷を負って額から血を流したティケが、力をなくしたようにドラゴンメイスを地に倒した。ガランと聞きたくもない固い音が響く。
「マジかよ……!」
「秋水、助けて……!」
機を見たゴブリン軍団が薄ら笑いで、ここぞとばかりに女子2人に向かって押し寄せてくる。
――まずい……このままでは、いつまで持つか分からない。
巨大ゴブリンを背にした瞬間、助けに向かおうとする秋水に重い一撃が加わった。
「ぐはあっ!」
すぐに転がり起きたが、革の鎧を装着していなければ正直、危なかったかもしれない。
「そうか……、忘れていた。このデカい奴は敵の攻撃をコピーする特殊スキルを持っていたな……」
勝利を確信したかのようなLサイズ・ゴブリンの顔に、秋水が握る長剣の切っ先がゆっくりと向けられた。
「今の僕を、俺を邪魔すんじゃねえぇぇぇ……!」




