秋水の戦い
「マキちゃん! うおおッ! てめえら、どけえええ!」
剣士の姿になった秋水は、一気に攻勢を仕掛けてくるアマゾネス・ゴブリンの集団をロングソードで25°斜めに薙ぎ払った。すごい剣圧に吹き飛ばされ、盾ごと切り裂かれたゴブリン達は床に叩き付けられた瞬間、HPが消し飛んで輝くポリゴン片となって爆散したのだ。
「くそおッ、マキちゃん……!」
背後の死角から飛び付いてくるゴブリンの剣士には、ソロムコの盾で壁に向かってはたき落とした。数の上で圧倒的に優勢で、にわかに蛮勇となっていた軍団に明らかなブレーキが掛かる。
息を荒くした秋水は、守るべき人への注意が疎かになっていたミスを今更ながらに悔いた。鎧姿のまま閉じていた目を開き、倒れたマキちゃんの元に駆け寄ると、赤いカットソーの紅が増しており、切り裂かれたような傷口が背中に開いていた。
「しっかりしてくれ!」
「……秋水にーたん」
幸いな事に浅い傷とショックを受けただけで、彼女の意識ははっきりとしていた。
ふと傍を見ると、ゴブリンの投げた槍が貫通したケサランパサランが転がっている。白い毛玉のボディを最大限に膨張させて、槍がマキちゃんに刺さるダメージを最小限に減衰させたのだ。ミニ妖怪は、宣言した通り自らの身を挺して姫を守ったのだ。
「ケパ!」
ティケはボーラが巻き付いて拘束された状態だったが、怒りのパワーでロープを引き千切った。あんな細腕と脚なのに、一体どこにそんな力が隠されていたのか。
それより温厚な彼女が、怒りの表情に満ちていた事実に、秋水は背筋が薄ら寒くなった。ティケは怒らせると怖いタイプに違いない。普段にこやかな彼女が、怒りに支配された場合、何がどうなるのだろう。
「秋水!」
「は、はい!」
「マキちゃんに回復用のポーションを飲ませてあげて!」
彼女が投げてよこした小瓶には、緑色に光る液体が入っていた。助け起こしたマキちゃんに急いで飲ませると、小さな体が暖かな光に包まれるのを見届けた。
「我に止めどなき力を! 衝撃破魔法!」
魔法使いがドラゴンメイスを8の字に回した瞬間、周りの空気が先端の竜涎石に集まる錯覚が起こる。――かと思ったら、部屋の空間を歪ませるような空気の振動が発生して、ボーラ使いゴブリンの集団を一気に緑色の煙へと消滅させた。ガラス類が全部割れてしまったが、さすがティケの魔法だ。恐ろしい……。
だが何と、ゴブリン軍団がまだまだ加勢してきて、一向に攻撃の手が休まる気配がしない。
「オイ、ヘボ剣士。 ハヤク魔法ヲ使ッチャイナヨ」
「ええ!?」
ケサランパサランのケパが、槍に刺さったまま口をきいた。スポッと抜けると、真ん中に穴が開いた状態で、マキちゃんの枕になった。
「忘れていたぜ! 毛玉野郎、頼んだぜ!」
オンラインVRゲーム、ディアブルーンの世界を思い起こすかのように、長剣を低く構えた秋水は息を止めたままで、腹に漲る力を溜めた。
前衛を務めていたティケは魔法の力を感じると、お尻を上げ気味に床に伏せたのだ。
「いいぞ! ホリゾンタル・スラッシュ!」
ライカンスロープの剣による一閃は、秋水による魔法力が上乗せされており、青白い水平の光波となってアマゾネス・ゴブリン軍団を飲み込んだ。
瞬間的に、2、30体分の肉片と武器・防具の類いが空中に飛び散ったかと思うと、光り輝く角粒子となって消し飛んだのだ。
「おお~、こわッ! スゴイじゃない秋水!」
「まだまだ! ホリゾンタル・スラッシュⅡ!」
今度は背後に迫りつつあったゴブリン軍団に向かって、紫に輝きを増す長剣を振り払う。
「ギャギャギャ!」
緑色の軍団は、一瞬の悲鳴を残して幻のように散華すると、宝石箱をひっくり返したように大量の貴金属・ボーナスアイテムに変化して床に散らばった。
「これじゃあ、キリがねぇ! 逃げるぞティケ!」
「ええ! 行くわよ、ケパとマキちゃん!」
だが非常口に向かおうとした3人の前に、一際大きなアマゾネス・ゴブリンの一体が立ち塞がったのだ。




