博物館バトル その2
「……今ここに我が欲する物を導かん! 出でよ、マジックアイテム!」
目を閉じたティケが両手でドラゴンメイスを掲げ、呪文を完成させた瞬間……。
床に浮かび上がった魔法円の中に、見覚えのある品々のシルエットが徐々にだが、はっきりと形を成してきた。
――どうも西洋風の立派な長剣と丸みを帯びた盾、それにゲームに登場しそうな古くさい鎧と水晶球の割れた欠片のようだった。
「ティケ! これは……?」
中身が空になった消火器をブン回し、ゴブリンの接近を辛うじて防ぐ秋水が、叫ぶように訊いてきた。背後のマキちゃんを守るため、汗だくになって息を切らしている。
「秋水がモンスターを倒してゲットした、4種のアイテムよ」
ティケは短剣を振り回しながら突進してくる、三つ編みおさげのゴブリンをドラゴンメイスで弾き飛ばす。
「まずは……、ライカンスロープが、この世界に顕現するための依代にしていた長剣!」
2、3体のゴブリンに消火器を投げつけた秋水は、ついでに落ちていた棍棒も飛ばしたが盾で防がれてしまった。
「次にバーサーカーが、依代にしていたソロムコの盾!」
ケサランパサランのケパが、マキちゃんの目を保護している隙に、ティケは光の魔法でゴブリン達の視力を奪う。
「同じくバーサーカーが、依代にしていた革で作られた鎧一式!」
秋水はすっかり忘れていたが、これらの装飾が施された高そうな武器は、ティケが今まで保管しておいてくれたのだ。
「まだあるよ! スペクターの水晶球。4つとも、それぞれ私が魔法をかけておいたから。――秋水! 4回だけだけど、君にも魔法の技が使えるよ」
「何だって! ホントかよ!?」
秋水の瞳が一瞬、色めき立った。以前からVRゲームのディアブルーンのように現実世界でも魔法が使えたりしないものか、と事あるごとに夢想していたのだ。
「……ということは、僕があの世界で得意にしていた技も繰り出すことができるのか!?」
ティケは長い髪を銀色に輝かせながら、振り向きざまに微笑んでウインクしたのだ。
「よっしゃ! いっちょやってみるか!」
何事にも中学生らしからぬ冷めた態度で、消極的だった西田秋水が珍しく燃えた。自分が好きなジャンルには、とことんのめり込むタイプなのだろうか。
だが、彼は当たり前の事に気付いた。
かなり退治したとはいえ、まだまだ増え続けるアマゾネス・ゴブリンの殺気立つ集団に囲まれたままでは、面倒そうなプロテクターなど装着している暇などない事を。……剣と盾くらいならば、すぐに手に取って戦えそうなものだが。
そんな秋水の戸惑いを当然のように察知して、ティケはまるで攻略ヒントを教えるかのように敵を蹴散らしながら伝えてきた。
「あ~、秋水。それらはマジックアイテムらしく、触れるだけで装備できるからさ」
「何と! そいつは助かるぜ」
言われた通り、敵の執拗な攻撃をかいくぐり、魔法円まで到達すると重厚な鎧に触れた。どうも、ゴブリンどもには奪い取る事もできないようだ。
「わお!」
瞬間、秋水の一般的な服の上から革製の鎧一式が装備された。少々間抜けだが、壮麗な剣と盾も手にすると、往年のディアブルーンにおける西田秋水、自称“アスカロン”に思えなくもない。
見事な装飾が柄に施された両刃の剣と、女神像が浮き彫りにされた盾の重みを感じれば、この圧倒的に不利な状況にも俄然、立ち向かう勇気が湧いてくるのだ。
……だが、飽和攻撃と物量作戦を少々甘く見ていた感は否めない。
ティケは複数のゴブリンの手練れによるボーラ攻撃に、ドラゴンメイスごと絡み取られた。縄の両端に錘を付けた投擲武器に両足もロープで拘束された状態だ。
「きゃあああ!」
ちょっと目を離した隙だった……。後方に控えていた力自慢のアマゾネス・ゴブリンの投げた槍が、マキちゃんの背中に命中する瞬間を、秋水は目の前で見てしまった。




