博物館バトル その1
「きゃあああ! 秋水にーたん!」
最初は遊戯のように面白がっていたマキちゃんも、さすがに凶暴なアマゾネス・ゴブリンの形相に恐れをなすと急に怖がり始めた。小さな手を必死に秋水の背中へ回して抱き付いてくる。
「大丈夫だよ、マキちゃん。お兄さんが守ってやるからさ」
秋水にぴったりとハグするマキちゃんの、見せ付けるような態度が気に入らなかったのか、ついにポニーテールのゴブリンが青銅製のハンマーを振りかざして襲い掛かってきた。
「オラァ! マキちゃんには、この俺が指1本触れさせねえぜ!」
少々レベルアップを果たしていた秋水は、強烈な蹴りをポニーテール・ゴブリンに浴びせた。
「ギャッ!」
短躯のモンスターは、戦鎚を振り下ろす前にキックの射程圏内に入っていた。気付けばゴブリンは、壁にぶち当たって気絶していたのだ。
「丸腰なのに、やるじゃない! 秋水!」
不敵な笑顔のティケはドラゴンメイスを華麗に振り回すと、飛び付いてきたゴブリンの頭部を兜ごと叩き割っていた。
殺意剥き出しの相手には本当に容赦なしだ。当然だろう。そうしなければ、こっちが殺られる。
早速、HP0となったゴブリンが散り散りにポリゴン片となって消滅すると、依代にしていた指輪が床に転がった。
「わあああん! にーたん怖いよ!」
マキちゃんがとうとう泣き出してしまった。
――マズいな、子供心にトラウマにならなければいいが、と秋水はいらぬ心配を始める。
その時、ティケのブラの中に潜んでいたケサランパサランのケパが胸元から飛び出して、マキちゃんの頭に乗っかった。
「マキチャン、ダイジョウブ、ボクガツイテルヨ」
ナイト役を白い毛玉妖怪に奪われてしまった。……だが刻一刻と知らぬ間に増え続け、100体ほどに膨れあがったゴブリン軍団を前にして、『情けない』などと嘆く余裕はなかったのだ。
ケパのおかげでマキちゃんは落ち着いた。安心した秋水は、近くにあった二酸化炭素消火器の安全ピンを抜くと、レバーを握りこんで白煙を緑色の群れに向けて放射した。
「ギャギャ!」
見た目は派手だが、痛くもかゆくもない炭酸ガスを敵に浴びせても牽制以上の効果はないだろう。背後のティケに視線を移すと、まるで舞を舞うかのような華麗なステップでドラゴンメイスを振り回し、確実にゴブリンを仕留めている。
「ティケ! 魔法はどうした? このままじゃ包囲を突破できないよ!」
「困ったわね……。貴重品が並ぶ館内じゃ、火炎系も水系も風も土も使えないじゃない」
その時、マキちゃん目がけて長槍を握ったゴブリンが、奇声を発しながら飛び掛かってきた。
「これならいかが!? 球電魔法!」
ティケがドラゴンメイスを振ると、眩い光のボールが出現して空中のゴブリンに触れた。
瞬間、目のくらむような電光が迸り、多数のゴブリン達が巻き込まれる形で電撃が走ったのだ。
「ぐわっ! 何だ!?」
マキちゃんに覆い被さった秋水が両目を開ける頃には、数多くの武器を握ったアマゾネス・ゴブリンの黒コゲが人形のように転がっていた。……途端に防具ごと輝くポリゴン片と化し、博物館の床には依代にしていた宝石類やら金貨、回復系と見られる緑色のポーションの小瓶が散らばる。
「ちょっと、秋水! アイテムを拾い集めてる暇はないよ! あなたにも少し協力してもらうわね」
何やら早口で呪文を詠唱する凜々しいティケ。秋水は何だかイヤな予感がして、額に冷や汗が滲んだ。
魔法使いが脱ぎ去ったダッフルコートの近くに、妖しい光の魔法円が浮かび上がる。
「まだ覚えてるかしら!? あなたが今までにゲットしたスペシャルアイテムを、今ここに呼び出すわね!」




