美少女降臨 弁天ちゃん
その時、博物館のそこかしこに設置されている巨大液晶モニターから素っ頓狂な声が響いてきた。この博物館の新イメージキャラクター、湖の女神・弁天ちゃんと黄金ナマズ・イワちゃんのアニメーション映像である。
「はぁい! 私、琵琶湖の守り神でもある弁天ちゃんこと、弁才天ですぅ!」
「僕は弁天ちゃんのパートナーを務めている黄金のイワトコナマズです。そうだなぁ……イワちゃんとでも呼んで下さいねぇえ!」
弁天ちゃんはミニスカ風天女服と羽衣をフリフリと振り乱し、その周りをイワちゃんが衛星のように泳ぎ回る。ロリ女神様は、エレキ琵琶の弦をピックで弾かせながら解説を始めた。
「ねえねえ、聞いてよ。イワちゃん!」
「なんだい、弁天ちゃん? エレキ琵琶のボリュームがデカすぎて聞こえにくいよ」
「ごめんごめん。実は琵琶湖博物館は近々、リニューアルオープンされるんだよぉお!」
「そいつは驚いた! 弁天ちゃんは七福神もバイトでやってるから、これから忙しくなっちゃいそうだねぇえ!?」
「おっとぉ、そいつは館長にもナイショの話だから、大きな声で言わないでぇ」
「あいむソーリィー」
「ところでイワちゃん、日本各地で水に関係する場所には弁天の名が……」
液晶モニターが石斧と棍棒で乱暴に破壊されると、映像は途切れてしまった。プラスチックの筺や展示物を粉々にした小人はヒヒヒ、と醜く笑う。
イグアナのような体色をした背の低いモンスターが、続々と2階へと集結しつつあったのだ。
博物館を訪れていた他の人達は、いつの間にか姿を消していた。あれほどいた家族連れ等の方々は一体どこに? ……どうもコイツらにも今までの化物と同様に、人払いの能力が備わっているとしか思えなかった。
西田秋水は、モンスターの襲来に『またか……』という溜め息にも似た独り言を呟いた。まだこの前のバトルの記憶が、色褪せていないというのに。
「ティケさん! また来ましたわよ! ディアブルーンから抜け出してきたかのようなモンスターが! 見覚えがありますけど、ゴブリンかな?」
「秋水!? 何か変な口調になってるよ!?」
「そりゃあ、一番来て欲しくないタイミングで、不意を突かれると、こうなりますがな!」
「そうなの? 安心して。数は多いけど、レベルの低い奴らだから」
「くそ雑魚でも、質より量で押し寄せてきたら危ないんじゃないの?」
「そうかもね、よく見ればアマゾネス・ゴブリンみたい」
「何じゃそれは!?」
ゴブリン達は、三つ編みの頭に簡素な兜を被ったり、長い髪をポニーテールに縛っている。ワンピース風の毛皮や防具の下にある胸は、それぞれ女性らしく膨らんでいた。背が低くても結構筋肉質で締まっており、手製の棍棒や盾の他、人間やドワーフから奪ったとみられる槍や剣などの武器を携えているようだ。
「ゲッゲッゲッ……!」
尖った耳に凶悪な面構えをしたアマゾネス・ゴブリン軍団は、緑色の顔を西田秋水に向けると、嬉しそうに涎を垂らすのだ。
「秋水、気を付けて! どうも私だけでなく、あなたも狙われてるみたい!」
「何だって!?」
「アマゾネス・ゴブリンは女性しかいないから、人間の男を誘拐するそうよ」
「狼女の時といい、何で僕はモンスターどもから好かれるんだ!?」
「マキちゃんも行久枝ちゃんも秋水の事が好きみたいだし、本当に羨ましくなるほどモテモテだね」
「そんな冗談を言ってる場合じゃない! 昼間はカゲマルの助けも期待できないし……。この数はマジでヤバいよ!」
ティケは髪に差していたドラゴンメイスを巨大化させると、軽々と素振りした。本来メイスとは、鎧などに打ち付ける打撃用の武器なのだ。




