女ゴブリン来たる
予想外の思わぬ事態となった。どういう流れで、こうなったのだろう。
いや、決して悪い状況とは思えない。天罰が下るであろう。そんな事を思えば。
普通に考えてラッキーと言うか、極めて嬉しいハプニング?なのだが。
本日はティケと初デートの約束がある。
図書館で一緒に勉強するような事はたびたびあったが、プライベートでティケと、どこかに遊びに行くなんて事は意外と今までになかったような……。
なぜか必要以上にアガってしまう。ティケに恥をかかさないように、着ていく服にまで気を遣う。慣れてないからかもしれないが、胃の辺りがキリキリと痛む。引きこもり予備軍であった自分には荷が重すぎるというか、逃げ出してしまいたくなる。
小心者そのものだな、と秋水は自嘲した。マキちゃんも一緒のデートだというのに。
まずはマンションの1階にあるティケの部屋から訪問だ。
エレベーター内にある鏡で服装のチェックをする。新品パーカーに何の変哲も無いTシャツとデニムのパンツだ。散髪も昨日済ませたばかり。
ドキドキしながらカティサークと刻まれた表札があるドア前までくると、101号室のインターホンのボタンを押した。
「は~い、秋水? ちょっと待ってね」
何で緊張するのだろう……。ティケおよび行久枝ちゃんとは以前から半ば日課のように、ほぼ毎日顔を合わせて自転車通学するようになったというのに。
「お待たせ! さあ行きましょうか」
銀髪をさらりとなびかせたティケの服装は、チェックのミニスカートにショートブーツ、濃紺のブラウスに短めのダッフルコートという出で立ちだった。理想を具現化したような太さの白くて長い脚に、視線も心も奪われる。
「どうしたの? 秋水?」
「あ、ううん。マキちゃんを迎えに行こうか」
ぎこちなく2人で、いつもの街並みを歩いて行く。妙に人目が気になり会話は少な目だ。
「琵琶湖博物館の水族展示室、楽しみだなぁ!」
「ああ……」
ティケは動物園、そして水族館にも行った事がないと言う。そこで県内で淡水の水族館が存在する琵琶湖博物館をチョイスしたのだ。
中学生の初デート場所として、何と健全すぎる施設だろう。2人でマキちゃんを連れて行く所として、お母さんも問題なく同意してくれた。
マキちゃんが暮らすマンションには、あっと言う間に到着した。14階では前と同じように秋水とティケを待ち構える母娘の姿があった。
「あらあら、秋水君、うちのマキちゃんを遊びに連れて行ってくれるなんて本当に嬉しいわぁ。……そちらが噂のティケさん? ハーフなの? 思った通り、素敵で綺麗な子ね~! 思わず妬けちゃうくらいだわ」
同じような年齢の姿をしていたが、マキちゃんのお母さんはオバさんのような口調だった。ティケは挨拶した後、素直に喜びの表情を見せたのは言うまでもない。
「彼女とのデートに邪魔しちゃって悪いわね。マキちゃん、大人しくしてるのよ」
「うん! マキは秋水にーたんのモノだから、大人しくする!」
「ははは……。マキちゃん、誤解を招くような事は……、と僕が言っても分からないよね」
ちなみにマキちゃんの服装は母親譲りなのか、黒のワイドパンツに赤のカットソー、同色系のカーディガンを羽織っていた。まだ中身は赤ちゃんのはずなのに、一番年上に見える服装だったのだ。
「気を付けて行ってらっしゃい。秋水君、それにティケさん。うちの子、迷惑を掛けるかもだけど、頼んだわよ」
「は~い! 安心して任せておいて下さい。ね、秋水!?」
「そ、そうとも」
やっと調子が出てきたのか、秋水の表情から固さが抜けてきたように思える。それを感じ取ったティケは、長い銀髪を物珍しそうに触れるマキちゃんに感謝したりもしたのだ。
――そんな彼らの他愛のないやりとりを、遠く離れた建物の隙間から監視する人型の異形がいた。
まるでグレイと呼ばれる宇宙人のように頭が大きく、その逆に体躯は子供のように小さい。両目は離れて血走り、耳は笹の葉のように尖っていた。ほんの申し訳程度の毛皮で胸と腰と足を覆う、その異形は髪の長さも考慮して雌、いや女性なのかもしれない。
彼女はイグアナのような体色の顔をモゴモゴと動かすと、目を細めアヒル口を作ったのだった。
「ゲッゲッゲッ……」




