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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第3章 悪魔が来りて影隠す
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君死にたまふことなかれ


 その時、事の成り行きを見守り続けていた地獄の猟犬、ヘルハウンドがティケの傍にゆっくりと移動を始めた。ウエーブがかった艶のある黒毛をなびかせると、現実世界(リアルワールド)における主人である彼女に寄り添ったのである。そして何か言いたげに赤い眼と垂れた耳のある頭をうな垂れる。


「ヘルハウンド……、力を貸してくれるの?」


 ティケが黒妖犬(ブラックドッグ)の首元に白くて細い腕を伸ばすと、魔犬はそれをひょいと頭の上に乗せたのだ。

 するとティケのMPそのものを表している輝きを帯びた粒子の流れに、ヘルハウンドからの青く煌めく光の流れが加わったのだ。それらは渦巻くような大きな流れとなって、ドラゴンメイス先端の竜涎石へと吸収されてゆく。


「……並ぶ者なき威光を示す時、我が願いを聞き遂げたし、蒼ざめた馬(ペイルライダー)よ!」


 最後の力を振り絞ったティケの声に、眼前の魔法円がチェレンコフ光のような青白い輝きを増す。すでにヘルハウンドは現世にその存在を維持できなくなったのか、薄く消えかかっている。


「ありがとう……ヘルハウンド」


 ティケが乱れた銀色の髪をくし上げると、魔犬は別れを惜しむかのように遠吠えを残し、この世から完全に消滅した。

 正に現実世界(リアルワールド)のモノならざる犬と入れ替わるタイミングで、西田秋水の心臓は鼓動を再開し、急速に生命活動を活性化させているようだ。それは医学的な蘇生ではなく、魔術的な死からの復活なのである。

 秋水は、まるで悪夢から目を覚ますように意識を回復させると、砂まみれになった顔を腕で拭い、力の抜けた上半身に乗っている頭を左右に動かした。


「あれ、僕は何でこんな夜中に……校庭のど真ん中で居眠りしていたんだ?」


「秋水……!」


 すぐ傍にはティケ……いや彼の背中は、先刻から横座りの彼女に抱きかかえられており、汗で額に張り付いていた前髪を優しく白魚のような手で梳かされていたのである。


「……ティケ、どうしてここに?」


「あなたに、また会うためよ」


「それに君の髪、綺麗な銀髪になってる……」


「ああ、これ? 思い切ってイメチェンしてみたの」


「何だか、とっても似合うよ」


「そう? あなたからそう言われると、本当に嬉しい……」


 汚れたセーラー服の魔法使いは、感極まったのか涙が溢れ出してきた。

 暖かな真珠のような粒が頬を伝い、秋水の破れた制服に落ちては消えた。


「どうして、そんなに泣いてるの?」


「もう一度、こうして秋水と話せたから……」






   ✡ ✡ ✡






「……ティケ殿、やっぱりあなたは、れっきとした人間だな」


 地に落ちたままのドラゴンメイスを拾い上げたカゲマルは、ケサランパサランのケパを肩に回すと、事後処理に取り掛かったのだ。そして野暮なマネはすまい、とあえて口を結んで黙っていた。校舎の屋上から、クレーターのできたグラウンドを見据える影の存在がある事を。


 人影は嘲りの表情で、聴く者のいない屋上の闇に言葉を転がした。


「……フフッ! スペクターの奴、あれほど大口叩いてたのに、呆気なく返り撃ちにされてやんの」


 常夜灯も鈍る閉鎖された屋上に、色柄物のワンピースから胸の谷間を強調する、場違いな女の姿があったのだ。


「私にもっと紳士的で優しかったら、助けてあげてもよかったんだけどね……」


 サキュバスはもう飽きたように踵を返すと、壁に向かって歩を進めた。


「さて、上には何て報告しようかしら。もうとっくに見透かされてるかな」


 美しき影は、更に深い影色に包まれるように薔薇のフレグランスだけを残し、その姿を闇に溶かしたのだ。




 

 


 




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