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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第2章 2人目はヴァンパイア
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成金中学生


 秋水は中学生に望むべくもない大金を目の前にして、身震いが止まらなくなる。

 不正の匂いを感じ取り、はっと我に返ると、ATMの画面から顔を起こして周囲の様子を伺う。


『105番のカードをお持ちのお客様、2番の窓口までお越し下さい……』


 銀行内は客を呼ぶ受付嬢のアナウンスと忙しそうな行員のざわめく声が聞こえてくるばかりで、誰も秋水の事など気にも留めていない。キョロキョロしていると逆に怪しまれると思ったので、堂々と構える事にした。


「これはミミックとライカンスロープを倒した時にゲットしたお金なのかな~」


 わざとらしく小声で独り言を漏らしても、ざわめきの中に掻き消されてしまう。


「モンスターを倒したのはティケなのに、僕の口座に振り込まれるんだ~」


 隣のATMを操作している若い顔したお婆さんが、訝しげな目で秋水の事を見てくる。


「狼女って30万……、こんなにレベルの高い奴だったんだ~」


 不審な中学生として補導されるのはイヤなので、ここからは心の中で呟く事にした。


『どうする……? これは正式な僕の報奨金として貰っていいものなのか? ひょっとして何かの間違いで、犯罪になるのか? いや、確かにティケが運営から振り込まれるとか何とか言ってたよな……」


 後ろに並んでいたオッサンくさい少年から、イラついた咳払いを食らった。


「ええい、取りあえず1万円の出金!」


 秋水の手に折り目のない光り輝く1万円札が舞い降りた。


 そそくさと銀行を後にした彼は、足取りも軽い。そして空腹を満たすため、何を食べようかと色々思いを巡らせた。

 何せ今まで自由に遣った事もない万札が手元にあるのだ。どんなに高価な物をいただいても、たとえ派手に暴飲暴食しても必ずおつりが来るであろう。


「うっひょー! どうしよっかなー!」


 銀行を出てすぐの所にあるウッド調のピザハウスが目に入った。友達同士でも中学生ならば、まず入らないような店構えだ。秋水は部屋着とそう変わらないような服装で、ハイテンションのまま飛び込んだ。


『宅配じゃないピザなんて1人じゃ初めてかも~』


 そう心の中で叫ぶと、ウキウキ気分でマルゲリータ、更にパンチェッタとオニオンの揚げピザを注文した。落ち着いた店内を見回すと、平日ゆえに客もまばらで結構くつろげたのだ。

 モチモチ食感のピザ2種をペロリと平らげた秋水は満足げに店を出ると、腹ごなしも兼ねて徒歩でスポーツ用品店に向かう。


『……これだ、このスニーカーが欲しかったんだ』


 迷う事もなく急いで靴箱を店のレジに持っていくと、その場でボロボロのシューズから新しいスニーカーに履き替えた。店員のお姉さんに苦笑されてしまったが。


『さて、次はどうすっかな! 本屋に行って漫画の全巻大人買いをするか、それとも高くて買えなかったプラモでも手に入れるか……、映画を観に行くってのも悪くないなぁ』


 鼻歌交じりで守山市を徘徊する秋水の前に、バッタリと遭遇した垂れ目の庶民派美少女がいる。彼女こそ、自転車で帰宅途中の幼馴染み、寺島行久枝その人だった。


「あっ! 秋水じゃないの! ……あんた学校ズル休みしたね」


 委員長らしくヘルメット着用の謎校則を守っている彼女は、それを脱ぐとナチュラルセミロングヘアーの乱れをしきりに気にしている。秋水は仮病で休んだ気まずさを誤魔化すため、あたふたする事もなく無茶な提案をした。


「ちょうどいい、一緒に高田のじっちゃんの葬式に顔を出そう」


「それはもう、とっくに終わっていると思うよ。それに風邪ひいて休んでいるはずなのに、どう言い訳するつもりなの?」


「それも、そうか……。じゃあ、ちょっと駅前まで付いてきてくれない?」


「いいけど……何か?」


「いいから、いいから」


 秋水は寺島行久枝から自転車を奪うと、駅前まで押して歩いた。道中はもちろん、幼い頃より世話になっていた高田のじっちゃんの思い出話。2人がシェアしている共通の暖かな記憶。

 そうする事が何よりの故人に対する弔いになる、と秋水は確信していたのだ。

 悲しくはならなかったし、涙も出なかった。

 エレベーター内で見た、じっちゃんの幸せそうな笑顔が印象的だったからかもしれない。

 

 駅前から3分ほどの場所であるが、書店に併設されたカラオケ店がある。


「まさか、秋水……」


「その、まさか」


「いいのかな、ホントに」


 秋水のおごりで、少しの時間だけだが利用した。寺島行久枝も最初は大人しく遠慮気味だったが、最後には好きなアイドルグループの歌を熱唱して秋水をたじろがせた。

 故人を偲ぶ歌などなかったが、2人で兄妹のように遠慮もなく歌って帰ったのだ。

 

「楽しかった。また歌いに行こうよ、秋水」


「行久枝ちゃん、歌うまかったんだね」


「今度、一番点数の高かった歌、聞かせたげるよ」


「ああ……」


 マンションのエレベーター内でそんな会話を交わした後、それぞれの部屋へと帰宅したのだ。


 

 



 

 






 

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