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ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第2章 2人目はヴァンパイア
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Bad Morning2


  第2章 2人目はヴァンパイア


 激動の一夜が明けた。

 カーテンの隙間から窺い知れる仄かな陽の光や、ちょっとした空気の具合が、いつもの起床時間ではない事を告げていた。

 西田秋水は、どこにでもいるような至って平凡な中学生で、特別精神的に強靱であるとか根性の座った男子ではなく、どちらかと言うとヘタレである。当然の事のように体調不良を理由に学校を休んでしまったのだ。


 彼がアラームを止めてしまった目覚まし時計を手に取り、左眼だけで見ると10時を過ぎていた。

 朝方に両親は息子の不甲斐なさを叱責していたが、昨夜からの尋常ではない落ち込み様に、ついに何も言わずそっとしておいてくれたのだ。

 我ながら甘すぎる、と秋水は自責の念に駆られた。


「ティケ…………ティケは今日も何事もなかったかのように登校したのかな?」


 昨日は肉親が重傷を負ってしまったので、思わず興奮してティケに色々きつく当たってしまったと思う。冷静に考えると、彼女は間違いなく自分と母親の命の恩人と言えるだろう。

 ティケの魔法無くしては、女ライカンスロープに食い殺されていたかもしれないし、母の致命傷からの全回復も有り得ない事。

 自分の浅はかな感情任せの言動を恥じて、ますます憂鬱さに拍車が掛かってしまうのだ。


 寝ぼけ眼でリビングまで行くと、テーブルの上にチョココルネが置いてあった。そいつに手を伸ばそうとした時、ばたばたとベッドルームから母親が、黒い喪服姿で飛び出してきて秋水を驚かせる。


「あっ! 秋水! あなた、やっと起きたの? 1階のティケさんとゴミ出しの時に会ったけど、あなたが学校を休むって聞いたら心配なさってたわよ」


「母さん、昨晩もティケに会った事、覚えてる?」


「いや、昨日は会ってないはずだけど。それにしてもティケさんは、しっかりしていて立派ね。中学生なのに両親と離れて暮らしてるなんて。外国では普通の事なのかしら?」


「いや、あらゆる面で普通じゃないと思うけど。…………ところで、なんで喪服を着てるの?」


「あっ! そうそう! 5階の高田さんがお亡くなりになったのよ。あなたも、ちっちゃい頃から遊んで貰ってたからよく覚えてるでしょ?」


「えぇ! 高田のじっちゃんが! 昨日エレベーターで会った時、喋ったばかりだよ。僕ぐらいまで若返って元気そうにピンピンしてたけど!?」


 パジャマ姿で呆然とする秋水に、母親は困り顔で数珠をハンドバッグにしまい込んだ。


「……昨日、仕事場の休み時間に倒れて、そのまま眠るように息を引き取ったそうよ。何でも、とても穏やかで満足げな死に顔だったらしいわね」


「じっちゃん……。でも、どういう事だ……」


 秋水の脳裏に、職場に向かう嬉しそうな高田のじっちゃんの後ろ姿と笑い声がこだまする。

 

 ――つまり、10代ぐらいに見た目が若返っても実際は81歳。元の寿命は同じで、変わらないって事なのか……。


「とにかく行ってくるわ、秋水。そういえば昨日、その件で町内会に出掛けてたんだけど、途中からどうやって家に帰ったのか記憶がないのよ。変な事があるものね。ボケちゃったのかしら? いやぁね~」


 何だか、いつまでも立ち止まっている自分が恥ずかしく思えてきた。高田のじっちゃんは最後まで己のやりたいように生き、自分の道を突き進んで、綺麗に燃え尽きたのだ。


「……明日は学校に行くよ、母さん」


「ん! それがいいわ。偉いわね、秋水!」


 喪服のサイズが全然合っていないのを気にしながら母親は出掛けていった。秋水も遅めの朝食を済ませると、私服に着替えて早速行動を開始する。

 本当はじっちゃんの葬儀に参加したかったのだが……心の中で手を合わせ、黙祷を捧げたのだ。

 

 気になったのでマンションの1階にあるというティケの住居も確認してみた。表札には確かにカティサークとのファミリー・ネームが当たり前のように記載されていたのだ。


 ――う~ん、うちの親を保護者代わりの設定にしたとか言ってたけど……両親の頭の中を色々勝手に書き換えたりするのは何だか腑に落ちないな……。



 昨日の夜、狼女(ライカンスロープ)と戦った現場のシャッター街に行ってみる。

 生々しい記憶が蘇るかと思ったが、昨日の戦闘の場所にはそれらしき痕跡があまり見出せなかった。よく見るとうっすらと血痕があり、燃えかすなどのアスファルトが黒く変色している所があったぐらいだ。


 鑑識のように地面に這いつくばって調べていると、道行く大人だったかもしれない少年少女らが不思議そうな目で秋水を気にしている。


 軒先で不審な動きをしている中学生に、中学生のような家主が声を掛けようかとしていた矢先、秋水は別の2人組からその名を呼ばれた。


「こ、こんにちは。……西田……秋水さんですよね?」









 


 

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