表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミラクル14✡マジカルデーモンスレイヤー  作者: 印朱 凜
第1章 みんな仲良く14歳
15/79

ミミック


 意を決した秋水は、美術準備室に入って画用紙とイーゼルを準備した。アンティーク調の椅子にティケを座らせてポーズを取らせる。そう、ジョコンダ婦人のように。

 夢中でコンテを画用紙に走らせていると緊張感も薄れてくる。 何とかティケという至高の素材を表現してみたい、シンプルに紙に写し取ってみたい。

 集中力がピークに達する頃、何とティケは席を立った。


「え? どうした?」


 ティケは答える事もなく、厳しい表情で傍にあったペインティングナイフを握った。

 ――かと思うと秋水の背後に鎮座していた古代ローマ軍人を模した白い石膏像、マルクス・ウィプサニウス・アグリッパの胸像に向かって信じられないスピードで投げつけたのだ。


「えっ?!」


 鈍い命中音がしたかと思うと、重いはずの胸像が棚から崩れ落ちる。

 すると耳を塞ぎたくなるような『ギャッ!』と聞こえる断末魔の悲鳴。

 ……秋水は自分の目と耳を疑った。

 床に落ちて粉々に割れた石膏像。その砕け散った真っ白な破片の隙間から、生々しい鮮血と共に肉屋で見かける臓物めいた物が、ドロドロと流れ出してきたからだ。

 

「うわ!?」


 秋水は、ホラー映画さながらのビジュアルに腰を抜かさんばかりに驚き、座っている椅子から転げ落ちそうになった。

 ホルモン入りの石膏像は、甲羅を割られた亀のように暫く脈打ち、びくびくとしていたが、光り輝くポリゴン片となって昇華しつつある。


「何だ! 何なんだ、このグロい奴は?!」


 ティケは初めて見せる表情で、過呼吸ぎみとなった秋水の方に視線を投げた。


「これはミミックね。像に擬態化して見張ってたんだわ」


「ミミック? 化けてたのか? な、何のために?」


「それは、こっちの世界に転生した私を監視するためよ」


「監視? 君は、一体何をやったんだ?」


「別に何もしちゃいないけど。私の存在自体を危険視していると思う」


「え……、誰が?」


 ティケが答える前に準備室外の廊下で、美術部員数名の足音と話し声が聞こえてきた。

 次々と矢継ぎ早に起こる非日常的な事件。

 秋水は感覚が麻痺してきたのか、狂った笑顔で表情筋を引きつらせた。


「オイ、もう部員達が入ってきそうだぜ。見られたらヤバそう。どうする……」


「取りあえず、ここは立ち去りましょう。大丈夫、ゲームの名残でアイテムをドロップするだけだから」


 ティケの言う通り、床に染みを残したミミックは爆散した後、緑色の水晶柱をカランと落とす。


「あら、回復系のアイテムだわ。ゲットしておきましょう」


 それを拾いつつ荷物を纏めると、バレないように窓から2人で脱出した。


「ちなみに君の銀行口座にはディアブルーンからお金(マネー)が振り込まれているはずよ。さっきの奴なら低レベルで攻撃力もないし……、そうね500円ぐらいかも」


「一体どういう仕組みになってるんだ?」


「さあね! 運営に聞いてみないと」


 走って逃げてきた先は、自転車の駐輪場。幸いあまり人影もなく落ち着いていた。体力のない秋水は、早くも息切れ気味。


「はぁ、はぁ……。さっきのでパニックが起きてないかな? 美術室……」


「ディアブルーンのモンスターは、こちらの世界で死ぬと魂を維持できず、消えてなくなっちゃうよ。宝石や武器の類いを依代(よりしろ)にしてるから最後にそれがドロップするけどね。割れた胸像もマネしただけだから、オリジナルが無傷で残ってるはずだし」


「つまり普段と変わったところと言えば、書きかけの絵が放置されている事くらいかな。……それならいいんだけど。でも結構ショックがキツいよ、今日はもう帰ろうぜ」


 秋水は心を落ち着かせるために、改装されたばかりの守山市立図書館に立ち寄った。

 これから起こるであろう様々な困難。

 大人がいなくなった事による不都合。

 生きてゆくため必要になりそうな知識。

 護身術や武器、更には悪魔とか幻獣、魔法に関する事まで――。

 色々考えると頭が痛くなってきた。とにかく関係しそうな本を読み漁る。

 

「問題のゲームに関しては、ネットの方が情報を収集できそうだな……」

 

 最新の図書館は広くモダンにデザインされ、まるで美術館のよう。ティケは大層喜んで、すぐに利用者カードを作った。異世界から来たはずなのに、日本語でも普通に読める事が誠に不可解である。


 魔法使いがどんな本を読むのか気になったので、借りた本を見てみる。

 日本の歴史や文化、世界の国々の成り立ちに関する事、それにファッション雑誌も含まれていた。

 






 

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ