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萌えよドラゴン

書籍化します!

8月24日(金)、ダッシュエックス文庫より発売!

「ぐううう……! なぜだ……! なぜ世間は我をかわいがらん……!」



 ドラゴンは人気のない路地裏でこっそり嘆いていた。


 街だ。


 そこここには石造りの建物が建ち、老若男女問わぬ人類が闊歩し、若者は華美に着飾り、老人はそんな若者を見て『最近の若い者は』と言いつつなにかの列に横入りし、そんな老人がネットにさらされ炎上し、そしてその炎上がニュースとなって『最近の若い者は過激ですね』とコメンテーターに言われ、また老人と若者との確執が広がっていく――


 平和な街だ。


 その中でも特に若くてカワイイ女の子に人気のスポット近くで、ドラゴンは色々していた。


 スカートをはいた女の子のパンツを見たり――

 彼氏連れの女の子と彼のあいだい入り込んで、女の子足に顔をスリスリしたり――

 おいしそうな食べ物を食べている女の子の目の前でこれ見よがしに跳んだりはねたりしたり――

 そういうアレな活動を行っていた。


 だが、どうにもかんばしくない。


 女の子にすり寄ると女の子は逃げていく。

 食べ物を前に『ちょうだいちょうだい』とやっても食べ物はもらえない。

 それどころか蹴られそうになったことすら、あった。


 ドラゴンの予定では、あまりのカワイさにドラゴンに全財産をくれる女子が続出する予定だったのだが、どうにもなにかこう、現実と予定のあいだに巨大な隔たりがある。


 そう、ドラゴンは夢と現実のギャップに苦しんでいた。

 なぜ努力が報われないのか――そう嘆き、世の無情に悩んでいた。

 そんな時だった。



「オメェ、見てたぜ。なかなか苦労してるみてえじゃねえか」



 不意に男性の声が耳に響く。

 ドラゴンはつい、対応する――



「誰だ貴様は。この我より高い位置から我に話しかけるとは!」



 見上げる。

 すると、飲食店の裏によくあるゴミ箱の上に、猫がいた。


 猫というのは、四足歩行で、尻尾があり、世間では犬と人気を二分する愛玩動物である。

 ドラゴンは世間的に『犬』とみなされているので、実は対抗意識があった。

 だが、そんなものは霧散する――彼の胸中には対抗意識なんか気にならないぐらいのおどろきがあったからである。

 そのおどろきとは、すなわち――



「我は猫と話せたのか!?」



 新発見であった。

 今まで試みたことなどないのだ。

 猫は――大柄な、片目に傷のある茶色のぶち猫は、ニヒルに笑う。



「フッ……」

「なにがおかしい!」

「やっぱりオメェ、『犬』じゃねえな? 犬なら、オイラと話せたぐらいでおどろかねえ」

「……くっ……悔しいが、貴様にはひとかどの知能があるようだな……」

「オウよ。そしてオメェが猫でもないことも、わかるぜ。パッと見たら犬に見えるが……オメェはなんなんだ?」



 ぴょん、と片目に傷のあるそいつがドラゴンと同じ高さに降りてくる。

 ドラゴンは正体を明かしていいか一瞬迷ったが――



「……我はドラゴンだ。ゆえあって犬のように振る舞っているが……」

「ドラゴン! へえ、ドラゴンね!」

「なんだ、貴様、我を愚弄するか!?」

「いや、なるほどねェ……ドラゴンか。つまり――犬でも猫でもねえってことだな?」

「そうだ」

「ドラゴンがなにかは知らねえが、犬でも猫でもなく、それでいてご同業ってだけでオイラには充分さ」

「ご同業?」

「ああ。オイラもあんたも、同じ商売をしている」

「それは、いったい……」

「愛想を売って報酬を得る……そうだな、『愛玩業』ってところか」

「愛玩業!?」

「そうだ。『尻尾を追いかけてグルグルする』や『バーンと撃たれて倒れる』……これらはみんな、オイラたちの業務ってわけさ。そして仕事をし、報酬にオヤツやゴハンをもらう……つまるところ、現代のハンターってわけだ」



 なんかすっげー格好いい。

 ドラゴンは長い首をもたげ、身を乗り出した。



「それで貴様は――我になにを望み、我に声をかけた?」

「オウよ。オイラたち愛玩業は、愛されることが仕事だ。ところが最近、犬と猫のあいだでくだらねえ争いが勃発してる」

「争いとは……」

「決まってるじゃねえか。『どっちがカワイイか』だ」

「……なるほど」

「だが、こんなのはよくねえ。オイラたちカワイイ生き物が争っても、狩り場で住みにくくなるだけだ。どっちもカワイイし、犬と猫が絡んでいたらよりカワイイ……それでいいじゃねえか」

「たしかにそうであるな……」

「そこで、アンタに――犬でも猫でもねえアンタに、オイラたちの争いを止めてほしいんだ」

「……なぜ、我なのだ?」

「犬でも猫でもねえからだ」

「我に特別な才能を感じたのか?」

「いや、犬でも猫でもねえからだ」

「我のカワイさに犬猫を統一できる可能性を感じたのだな?」

「……まあそれでいい」



 片目に傷のある猫は口の端を吊り上げて笑う。

 大人の笑顔だった。



「アンタにねえ技術は、オイラが指導する。アンタはそれで圧倒的カワイさを見せつけて――『おねだりバトル』で勝ち進み、ボス犬ボス猫どもに勝ってほしい」

「ふむ……『おねだりバトル』がなにかはわからんが、なるほど、王になれとそういうことであるな。見事な目利きよ。貴様はどうやら、我の万物の王たる雰囲気に惹かれたようだな……」

「いや、犬でも猫でもねえからだが……まあいい。やってくれるか?」

「引き受けよう」



 ドラゴンは犬猫を支配下に置くことを決意する。


 ――これはまだ、彼が己の未来を知らなかったころの物語。


 このあと、彼は『おねだりバトル』を勝ち進み、町中の犬猫をまとめあげ――

 ――オヤツの食べ過ぎで太る。

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