出逢い(2)
「仲間を? なぜ?」
おれがさらに問うと、彼女は困ったように手のひらを顎に添えた。
ぽたり、ぽたり、と粘着質のある雫が滴っていた。
「教えてあげてもいいけれど、あなた。死ぬ覚悟はあるかしら?」
「…………別に生きているわけじゃないですから」
そう。
おれは死んでいないだけであって、生きているわけではないのだ。
「ふーん。まあいいわ。私がやっているのは、とある武術よ」
「武術? 武術で人が死ぬんですか?」
「どんな武術にも名残はあると思うけれどね。私のやっているものは特に顕著なのよ」
「もしかして、おれは殺されかけてたんですか?」
「まったくもってその通りよ。どこの流派かまでは言わないし言ったところでわからないでしょうけれど」
「教えてください」
おれは真剣に問うた。
「…………じゃあまず立ち上がりなさい。自分の力で」
ここにきて、ようやく自分の身体の異常に気づいた。
炎で焼かれた鉄板にでも触れたかと思うほどの熱さ。
金槌で破砕されたかと思うほどの鈍痛。
「ぐお、おおお……」
おれは、かつてない意思で立ち上がった。
純粋に魅せられてしまったのだ。
彼女の強さに。
「はあ、はあ、はあ…………ど、どうですか?」
「うんうん。これは頑張ったご褒美をあげなきゃね」
すると、彼女はおれを抱き寄せて、耳打ちをした。
「中国拳法」
どくん。
その言葉を最後に、おれの意識は遠のいていった。
胸に広がる衝撃と、小さく小さく……そして聞こえなくなる心音。
「もし、どこかで逢えるようなら、また逢いましょう…………」
鮮血を垂らしながら夜闇を裂いていく彼女の後ろ姿は、この世のものとは思えないほどに美しかった。
黒い赤が遠ざかり、白い赤が近づいてくる。
救急車のサイレンを聞きながら、おれは死の微睡みに堕ちていった。
幸せだった。
いまだかつてないほどに。