出逢い(1)
つい2、3分前のことだ。
おれは夜の公園に立ち寄った。
高校は市外のところにしようと思って、受験勉強に励んでいた。目頭に痛みを感じて、外の空気を吸いに玄関扉を開け放った。冷気を胸いっぱいにしても満たされず、ただ漠然と近所の公園に足が動いていた。
気づくと、街灯に嫌われたいくつもの瞳たちに取り囲まれていた。
殴られた?
蹴られた?
よくわからなかった。
痛い?
苦しい?
よくわからなかった。
「うぎゃ!」「ぐぼあ!」「げぶぅ!」
「あがっ!」「おげぇ!」「いぎぉ!」
悲鳴に……聞こえた。
急に静かになった。
たぶん、2、3分のことだったと思う。
おれの瞳もまた街灯を嫌ったんだろうか。状況……はよくわからないけれど、状態はわかった。
見知った男たちが数人、地面の一部となっている。動いてはいない。
「あら、あなた……やる人?」
女性の声が、上から降ってきた。
冬空の下でもさらに冷たさと鋭さを感じさせる声音。
黒い夜をさらに塗りつぶすような存在感。
見上げるのが怖かった。
でも、気になって仕方がなかった。
その表情とその佇まい。
「…………」
声にならなかった。
「そう。あなたはただ『巻き込まれた』だけなのね」
何を言われているのか。
半分は理解できるけれども、もう半分は理解できなかった。
苦手な証明問題を突きつけられたようだった。図形を提示されて補助線を引けば正解を書けるはずなのに、どこに引いていいのやら、引いたらどうして答えになるのやら、わからない。わからないからこそ……惹かれた。
「……なぜ、おれなんかを、助けてくれたんですか?」
最初に出た言葉がこれだった。
すると女性は、目を丸くして、くすくすと笑い出した。
「助けた……? 誰を? ……あなた? ああ、あなたか!」
「ええ、ありがとうございます」
「何か勘違いをしているようだから言っておくけれど」
「?」
おれは両肘と両膝をついた状態のまま、彼女を見上げ続けた。
彼女は笑っていた。
見世物小屋で面白い家畜を見つけたような、無邪気さと楽しさが混ざった様子だった。
「私が見ていたのは、そこでくたばっている連中だけよ」
「くたば……?」
思考が追いつかなかった。
彼女はおれを横切って、倒れている男たちの首筋に手を当てて回っているようだった。
「よし。ちゃんと死んでいるわね。生き残りを出しちゃ面倒だもんね」
「何をしたんですか?」
「ん? 仲間を殺しただけよ?」
当然とばかりに彼女は言った。