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国境の街ルナ

 レガートの森を抜けたイツキたち別動隊は、シュノー部長率いるレガート軍の一行より、10分早く国境の検問所に到着した。

 ルナの国境検問所は、敷地が200メートル四方で、建物は2階建てのレンガ造り。何度も補修したのか色の違うレンガが混ざっており、新旧のレンガがそれなりの味わいを醸し出している。

 レガートの森から時々やって来る魔獣や獣から、働く者や旅人たちを守るため、敷地は高さ3メートルの壁でぐるりと囲まれ、門も高く造られていた。


 ルナの街はレガートの森側に向けて広大な壁があり、もしも国境の検問所をすり抜けても、レガート側から街に入るには、街の入口で厳しい身分確認が待ち受けている。

 その為、検問所で通行許可証を発行して貰った方が、街に入る際に長時間待たされることはない。

 検問所は簡単な書類記入と身分確認が出来れば、30分も待てば通行許可証を発行してくれる。荷車があれば簡単な荷物検査も受けなければならない。

 因みに同じ隣国の同盟国でも、ミリダ国に入国する時は、入国審査に3時間から半日を要する。


「あんたたちはレガートの人?……で、縛られている5人は何?」


国境警備隊の若い門番は、イツキたち5人を見て面倒くさそうに尋ねた。

 門番が1人だけとは……レガートの森やルナの街が平和だということだろうかと、イツキたちは首を傾げた。 


「この者たちは、レガートの森で強盗を働いたので、捕らえて連れてきました」

「何?強盗だと!」


フィリップの説明に、門番の若者は驚きの声を上げ、ちょっと待ってくれと言って詰所に走っていった。

 数分後、門番の若者は警備隊の上官らしき男を連れて戻ってきたが、残念ながらイツキたちの知っている者ではなかった。


「強盗というのは本当か?」


やって来た上官らしき男は、強盗犯を睨み付けながら聴いてきた。

 強盗犯の5人は猿ぐつわをされたまま、必死に首を横に振りながら違うと訴える。


「証人なら居ますよ。ほら、後ろからやって来ている皆さんは、レガート軍の方々ですが、お疑いなら訊いてみてください。ちなみに我々はブルーノア教会の者です」


強盗犯の者たちは、『はあ?ブルーノア教会?』という顔をしてイツキたちを見る。門番の2人も『は?教会の人間?』という顔をして疑いの目を向ける。

 上官らしき男は、すぐそこまで来ているという一団を、門の外に出て確認する。

 確かに荷車にはレガート軍旗が掲げられている。上官らしき男は慌てて詰め所の中に駆け込んで行く。

 若い門番の話によると、国境警備隊や国境軍の上官たちは、たまたま視察に来ている領主と、会議をしていると言うことだった。


「フィリップ神父、なんだか面倒な予感がします」

「そうですねイツキ神父……とっととルナ正教会に行きたいのに、領主の屋敷に呼ばれそうで……はあっ」


イツキとフィリップは、ルナの領主の顔を思い出してため息をついた。


 2年前、1回目のハキ神国の侵攻を止める為ロームズへと向かう途中、レガートの森で魔獣を操る残虐非道な強盗殺人者に殺され、1人だけ生き残った商団に遭遇した。

 イツキは神父として祈りを捧げ、本教会のリース(聖人)エルドラ様から頂いた聖水を使って、死者たちの臭いを消し腐敗を遅らせ、ルナの人々から奇跡だと騒がれたことがあった。騒がれたことをイツキたちは知らなかったが・・・

 

 ロームズで作戦を成功させた帰路、再び立ち寄ったルナで残虐非道な強盗を捕らえる為、ルナ国境警備隊、カルート軍国境部隊、領主、ルナ正教会と協力して、見事に憎き犯人たちを捕らえたイツキたちだった。

 捕らえてから判明したのが、犯人たちは【ギラ新教徒】だったことである。

 そんな経緯から、領主に会うと色々面倒なことになりそうだと懸念したのだ。


 懸念していた通り、レガート軍の一行が来たと報せを聞いた領主を含む上官の皆さんが、一斉に建物の中から出てきた。


「レガート軍が来ただと!」とか「それでなんの用で来たんだ?」とか叫びながら、検問所に居た者たちは門の前に急ぐ。

 強盗犯のことは何処へ行ったのだろうか?

 ほんの一瞬イツキたち一行に視線を向けた、領主、国境警備隊隊長、国境軍隊長、その他隊員たちは、身形が冒険者であるイツキたちのことはスルーして、間もなく到着しそうな、レガート軍旗を掲げた一団を確認する。


 成る程、検問所にとって他国の軍人の一団は、警戒すべき……いや失礼があってはならないのかもしれない。


 イツキとフィリップは顔を見合せ、面倒な人(領主)ではなく、顔見知りの警備隊隊長に声を掛けることにした。


「ご無沙汰しております警備隊長。部下の方から報告がされなかったようですが、ここにレガートの森で捕らえた強盗団を連れてきました」


フィリップの丁寧な声を聞いた警備隊隊長は、視線を街道からフィリップに向けるため振り返った。そして何かを思い出して固まった。


「・・・?えーっと・・・貴方は確か・・・神父様?」

「お久し振りです。隊長。今日はお忙しいようですね?」

「ワーッ!いえいえとんでもありません!その節は弟の遺体をお連れくださり、悪辣非道な強盗団まで捕らえていただき、本当にありがとうございました!」


隊長の驚いたような大声を聞いた、警備隊の精鋭や軍の数人がフィリップの方に視線を向けた。


「アーッ!奇跡の、いやルナの恩人の神父様!」

「そ、そ、それに、子どもの神父様!」


「アーッ!」とか「ギャーッ!」と叫びながら、中には憧れの人を見るようなキラキラした瞳で、イツキたちを見ている隊員も居る。

【ギラ新教徒】の悪人たちを罠にかけ、鮮やかに捕らえたイツキたちの手腕と、イツキが首謀者の手首をスパンっと切り落とした様を見ていた隊員たちは、イツキのことを《剣の神の子》と噂し合っていたのだ。

 その叫び声に領主も視線を向け、イツキを指差しアワアワと驚いて声が出ない。


 

「レガートの森で強盗を捕らえたのですが、門番の方々が取り合ってくださらなくて・・・捕らえた際、偶然レガート軍の皆さんと休憩所でご一緒でしたので、真実かどうかレガート軍の方たちに、訊いてみてください」


格好は冒険者だが、その美しい顔立ちと気品、忘れることが出来ない程の輝きを放つ金色の瞳、間違いようがない!あの、あの奇跡の神父様たちだと、警備隊員も軍の者も確信した。


「「「申し訳ありません!今すぐ対応いたします」」」


直角に頭を下げて、殆どの者が謝罪した。そして対応していた門番の2人を睨み付けた。その視線が怖くて、2人の門番は、何がなんだか判らないまま土下座して謝る。

 最早、レガート軍どころの騒ぎではない。


「これは魔獣調査隊のフィリップ神父様、そしてイツキ神父様と従者の方もお久し振りです。その節はルナの街を救って頂きありがとうございました」


ルナの領主は、感激して……本当に嬉しそうに声を掛けてきた。

 そのニコニコ笑顔が、ちょっと苦手なイツキとフィリップである。ここで捕まったら逃がして貰えそうにない。きっと屋敷に招かれご馳走を出されて、あれやこれやと質問されそうなので、キッチリご辞退しておこう。


「ご領主様、お久し振りです。この者達は【ギラ新教】の手下です。しっかりと調べなければなりません。そこでルナの警備隊の本部で、余罪を追求したいので協力をお願いします。よろしいでしょうか?」


イツキはいつもの神父モードの慈愛に満ちた笑顔だが、有無を言わせない感じで領主にお願い(命令)する。

 当然逆らえる訳がない・・・奇跡を起こしルナの街を救ってくれた神父様のお願いなのだ。しかも、またしても悪人を捕まえてくれたのだ。



 このやり取りの間、レガート軍の皆さんは門の所で待たされていた。






 午後6時、イツキたち別動隊は、早目の夕食を済ませてルナ警備隊本部に来ていた。

 もちろん国境警備隊隊長も国境軍の隊長も、ルナの街を取り締まっている警備隊長も同席している。申し訳ないが領主様にはご遠慮願った。


「さあ……それでは、あなた方には真実を喋っていただきます。僕の前で嘘をつくと死にそうになるので、くれぐれも息をしている間に、本当のことを言うように」


ルナ警備隊本部の地下室には、イツキの低い声が響き渡った。

 その部屋はいわゆる取調室だが、イツキがそんな暗いじめじめした地下室を選んだのには、2つの理由があった。

 1つ目は、声がよく響くこと。2つ目は取り調べの様子を、他の者に見られないように出来ることだった。

 地下室に居るのは、ルナで働く3人の隊長とフィリップとイツキの5人、そして犯人たちである。


 フィリップは取り調べの前に、3人の隊長に向かってある脅しを……注意事項を告げていた。


「いいですか、これから行う取り調べは、神のお力をお借りして行う、ブルーノア教会の極秘中の極秘の方法です。当然領主様であろうと国王様であろうと、決して話してはなりません。もしも他言することがあれば、この国からブルーノア教会は撤退します。いいですね、神はいつも我々の有り様を見ておられます」と。


 美しい顔で脅すフィリップに、3人の隊長は震え上がった。

 前回極悪非道な強盗を捕らえた時、教会の一行の剣や弓の腕は超一流だったと、現場に同行した部下たちから聞いていた3人である。「あれこそ正に神業だった」とか「15人以上居た犯人を、僅か数分で動けなくした」とか、語り種になっていたのだ。

 そんな神父様に、教会を撤退させるとまで言われたら、恐怖で震え上がるのは当然のことだろう。


 極めつきなのが、ルナ正教会のファリス(高位神父)ドーブル様から、「あの方々は決して逆らってはいけない、神のお使いたちである」と、まるで暗示のように脳裏に叩き込まれていたのだった。



「では、矢に射られてケガを負っている者から始めましょう」


イツキは【銀色のオーラ】を身に纏い、《裁きの聖人》の力を発動する。

 たちまち空気は重くなり、気温まで下がっていく。

 イツキは犯人の1人と狭い牢の中に一緒に入り、犯人の目を見据える。


「これまでに犯した犯罪を、特に強盗行為について話しなさい」

「そ、そんなことはしていない!俺は、む、無実だ!」


犯人その1は、おどおどしながらも無実を訴える。隣の牢に入れられている4人が、イツキたちのやり取りを聞いて「そうだ俺達は強盗じゃない!」と叫んだ。

 隣の牢との間には壁があるので、姿や様子を直接見ることは出来ないが、声は響いてよく聞こえた。

 同じ牢に居る4人は、猿ぐつわを外され自由に喋れるようになっていたので、絶対に本当のことは話さないと、固く約束し合っていた。


「いいな、多少の拷問にあっても、決して喋るんじゃないぞ!」と、リーダーの男は小さな声で、何度も何度も仲間に念押しする。



 イツキは無表情のまま、《裁きの聖人》の力を少し強くしていく。

 すると瞳は、次第に闇のように黒く沈んでいった。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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