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レガートの森を越えて(3)

 イツキたち一行の2つのテントから、20人もの人数が狩りに出発する姿を確認した5人の旅人達は、5分経過したところで自分たちのテントを畳み始めた。

 そして、母国語であるカルート語で全員が話し始めた。


「お頭、彼奴本当に出ていきましたぜ」(その1)

「レガート国民は平和ボケしてるから、危機感の欠片もねえんだ」(リーダー)

「でも奴等の荷物なんか、大して金目の物なんて無さ気だからなぁ……」(その2)

「ササキヤの荷物は、俺が荷馬車ごと貰っていきます」(その3)

「材木屋は馬が4頭いる。全員が馬に乗れるし、馬は高く売れるから良しとする」


リーダーの男はフンッと鼻で息を吐き悪態をつく。そして、川向こうで未だ起き出していないイツキたちと、ササキヤ一行のテントに目をやって、右の口角を悪人顔になるほど上げた。


「お頭、これで俺たちは【ギラ新教】の幹部になれるんですよね?カルート国で誘拐したガキと、女たちの管理を任せて貰えるって話は、信じていいんですかね?」


「ああ、カルート国内の店は俺たちが管理する。もう誘拐する必要もない……女も好きにしていいと言われている」


リーダーは4人の手下たちを見てニヤリと笑い、これからは楽しい人生が待っているんだと自分に言い聞かせて、最後の仕事を開始するため作業を再開する。





「イツキ先生、予想通り奴等が動き出しました。俺は馬を連れて川を少し下ります。本当に1人で大丈夫ですか?」


「大丈夫だよハモンド。奴等の狙いは馬だ。馬を動かしている間は襲ってこれないはずだ。ササキヤの護衛と一緒に、段取り通りに動いてくれればいい」


ハモンドはイツキの言葉に頷くと、静かにテントを出ていった。そしてササキヤ一行のテントへ行き、護衛を2人伴って計画通り馬を連れて移動し始める。

 イツキはテントの外へ出ると、馬の居ない木材の積まれた荷車の荷台から、スープの材料となる野菜を取り出した。





 川向こうから移動を始めた5人の男達は、橋の辺りで馬を移動するハモンドと、ササキヤ商団の護衛の姿を見て「チッ」と舌打ちし、計画変更を余儀なくされた。


「仕方ない、馬が帰ってきたら人質を取る作戦に変更だ。ササキヤの荷馬車の荷は諦める。荷車に繋がれてないから、奪ったら直ぐに馬に乗って逃げるぞ。運べる荷物だけ持って行く」


「「はい、分かりました」」


リーダーから告げられた計画変更に、4人の手下は小さな声で返事をする。

 どのみち勝利は目の前である。目標の金額には馬3頭を売れば到達するだろう。

 最後の仕事は人殺しをしなくても良さそうだと、手下の者は安堵する。

 ここは欲をかかず、馬だけを狙う。ようやく旅回りの生活を終わらせることが出来るのだと、5人は夢が膨らんでいく。





「そろそろお客さんのお出ましのようだ。今日のスープは軍学校のピータに教えて貰ったピータスペシャル。33人分は鍋の大きさ的に無理だから、量は少な目に注ぐしかないかな」


イツキは独り言を言いながら、テントから少し離れた場所で火を起こし、水を入れた鍋を火にかけ玉ねぎの皮を剥き始める。5人の男たちの足音が聞こえてきたところで、フンフンフンと鼻唄を歌い出した。


「やあ坊主、1人で準備かい?他のメンバーはどうした?」

「おはようございます。皆は狩りに行きました。残っているのは4人だけです。商団の人たちもまだ寝てるので静かにお願いします。今、準備を始めたばかりなんで、あと40分待って貰っていいっすか?」


イツキは囁くような小さな声で、5人組のリーダーにお願いする。

 5人組のリーダーは「少し早過ぎたな」と済まなさそうにする。でも、川の対岸から見たら様子は分かるはずだし、今朝はゆっくり朝食の準備をすると昨夜伝えておいた。



「すみません、もしも急ぎの旅だったら悪いんで、俺たちに構わず出発してもいいですよ。狩りに出掛けた者は、あと1時間は帰ってこないから」


暫くしてイツキは玉ねぎを切り終わり、香草を手で千切りながら5人組に話し掛けた。


「いや、別に急ぎでもないさ……ところで、馬は何処に行ったんだ?」


リーダーの男は、あまりにのんびりしたイツキの様子にイライラし始めたようで、川下の方に目をやりながら質問する。


「何で馬が気になるんですか?暫く帰って来ませんよ。川下に馬が好きな草があるとかで、狩りに出た皆と同じくらいじゃないかなぁ……帰ってくるの」


イツキは切った玉ねぎを鍋に入れ、軍学校の調理場から貰ったスープの元を投入する。決して5人組とは視線を合わせない。


「そうか……それなら飯の準備が出来るまで、俺たちも川原を歩いて散歩でもしてくるか。おい行くぞ」


リーダーの男は4人に目配せをして、これ以上待っていては狩りに出た者が帰ってきて、面倒なことになると判断し歩き出そうとする。



「馬を盗んでも、レガートの森は越えられないと思うなぁ……あんた達、余罪も有りそうだからさ、カルート国のルナの警備隊に引き渡したら、きっと喜ばれるだろうな」


イツキは仕上げに千切った香草を入れる。フワッとどこか懐かしい、食欲をそそる香りが広がってゆく。鍋に蓋をして、火の勢いを弱めるために薪を掻き出す。

 そして、血の気が引いた顔で立ち止まっている5人組の方に、ゆっくりと立ち上がり振り返る。


「お前、なにもんだ?」(リーダー)


「何者?只の冒険者だけど?あんた達の顔の回りにさ、どす黒い悪人のオーラが……いや、顔に悪人だって書いてあるじゃん。違う?違わないよね」


イツキは何時もの黒い氷の微笑みのまま、クスリと笑った。

 何なんだこのガキは・・・不気味で薄ら寒いものを感じたリーダーだが、この時はまだ余裕があった。


「はあ?お前バカなのか?この状況で言うのかそれを・・・もし本当に俺達が悪人だったとして、ガキのお前に何が出来る。未だみんな寝てるし、頼りの力自慢達は狩りで居ない。お前を人質にとればいいだけだ!」


勝ち誇った顔でリーダーは冷静さを取り戻していく。他の4人は一斉に剣を抜く。


「ふーん、俺が人質でいいのか?俺なんて見捨てられるかも知んないぜ」


イツキは泣き喚く訳でもなく、冷静で余裕さえある。そんなイツキの姿を見て、リーダーは違和感を感じた。それは、数々の悪事を働いてきた男が、始めて感じる違和感だったが、勝ちは決まっていたので、そのままスルーしてしまった。

 そしてリーダーは手下に顎で合図して、人質を増やす為ササキヤのテントを襲撃させる。

 ガサゴソと小石を踏みながら川原を走る手下達は、ササキヤのテントに到着すると、入り口を乱暴にめくり上げた。


「?、何故だ!何で誰も居ない?」(その2)

「お頭、だ、誰も居ません!」(その4)


4人はテントの中に居るはずのササキヤの一行が、誰一人として居ないことに驚きの声を上げた。



「うるさいなあ!静かにしろよ、眠れないじゃないか」

「誰だ、騒いでいるのは!」


イツキたちのテントから奇跡の世代のルドと、国境警備隊サブリーダーのボブが、丸腰のまま出てきた。

 リーダーの男は咄嗟に剣を抜いてイツキに向ける。イツキは剣など持っていない。


「動くな!動いたらこのガキの命はないぞ!お前たちは、川下から馬を連れてこい!」


リーダーの男は、只の木材関係の樵の2人に大声で叫びながら命令する。

 ルドとボブは驚いた顔をして、テントの方をチラリと見る。


「動くな!ガキが死んでもいいのか!剣を取りに行こうなんて考えるなよ」


リーダーはイツキの左腕を強引に掴み引っ張ると、首元に剣を突きつけ叫んだ。

 計画は狂ったが、狩りに出た奴等が戻る前に人質をとったので、なんとか目の前のガキの命で、馬と引き換えにしなければと、剣など出来ない樵の2人に睨みを効かす。


「おいガキ!ササキヤの奴等は何処へ行った?」


「何処だろう……強盗が居るのに、ゆっくり寝てはいられないから、荷物を持って逃げたんじゃない?」


「なにー!荷物を持って逃げただと?じゃあ、あの荷車はなんだ!護衛は馬を川下に連れて行ったはず……まさか……まさか馬を連れて逃げたのか!」


リーダーは慌てて手下たちに、荷車の荷が有るかどうかを確認するよう命じる。

 よく見ると、ササキヤの荷車は何故かテントから離れた街道の近くに置いてある。


「よし!準備オッケイ」


イツキは手下達がササキヤの荷車に到着するのを見て、誰に向かって言うでもなく呟いて、掴まれていない方の右手をスッと高く上げた。

 イツキの左腕を掴んで剣を突きつけたまま、ササキヤの荷車の確認をしようと視線を向けていたリーダーは、イツキの声を聞き、ギョッとして視線を戻した・・・途端、男の体は川原の小石の上に叩き付けられた。



「駄目だよ。利き手を自由にさせちゃぁ」


イツキは男を投げた後、何事も無かったような顔をしてリーダーを見下ろす。リーダーの男は何が起こったのか分からず、「ウウッ」と低く唸って、イツキを見上げる。


 その様子を目撃した手下達が、慌てて駆け付けようと1歩踏み出した瞬間、ヒュンと音がして、手下の1人が「ウワーッ!」と叫んでしゃがみ込んだ。

 手下の右肩には矢が刺さっていた。手下達は矢が飛んできたと思われる方に、体を向け振り返る。



 そこには、レガート式ボーガンを構えたフィリップを先頭に、同じくレガート式ボーガンを構えた12人が、まるでスポットライトを浴びるように、朝日に照らされ一列に並んで立っていた。

 いつの間にかリーダーの男は、ルドとボブに取り押さえられている。

 何処からか狩りに出ていた男たちが出てきて、ササキヤの荷車の前で固まっていた手下を、剣を抜いて取り囲んでいく。


「な、何なんだお前らはー!」懸命に抵抗しながら、リーダーの男が叫ぶ。

 その叫びを完全に無視して、ルドはせっせと男を縄で縛りあげていく。

 縄を持ってきたのは、テントの中で出番を待っていたシュノー部長だった。


「本当にコイツら強盗だったんだ・・・何で分かったのイツキ君?」


「シュノー……何でって、それがイツキ君だ。だから俺たちのボスなんだろう」


見事にレガート式ボーガンで手下の男を射たフィリップは、今更って顔をして幼馴染みのシュノーに説明する。



 どうやら悪人達は捕らえられたようだと思ったササキヤの一行が、少し離れた場所にあった、イツキたちのもう1つのテントの中から出てきた。 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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