ロームズへの道
シリーズ5作目に突入しました。どうぞこれからも、よろしくお願いいたします。
サクサクと書き進めていきたいと思っています。
この話はシリーズ4作目の【予言の紅星4 上級学校の学生】から、続く話になっています。
まだお読みでない方は、先にお読みくださいませ。
ローファンタジーにお引っ越ししました。
治安部隊指揮官補佐 様
ロームズの住民は、昼夜を問わず領主の屋敷建設に駆り出され、過重労働で苦しんでいます。
そもそもロームズに領主は居ません。当然違法労働です。
原因を探ろうとしましたが、3月末からウルファー統治官の姿を見た者は居ません。
現在住民に違法労働を課しているのは、表向きは統治官です。しかし直接命令しているのは、事務官兼補佐のサイシス伯爵です。
サイシス伯爵は、全て統治官の指示で命令していると言っています。
ロームズの住民は反乱など考えていません。
ただ、統治官が教会での祈りを禁止したため、取り消しを求めて町長と住民数人が統治官の屋敷に押し掛け、反乱を画策したとして、捕らえられました。
現在ガルロは町の住民に成り済ましていますが、自分は冒険者として申告した為これ以上滞在できず、隣のビビド村にて待機しています。 ドグ
5月15日にレガート軍ミノス基地に届けられた秘密文書は、18日にレガート軍本部ギニ司令官の元に届けられた。
ギニ司令官は、事前打ち合わせの通りにメンバー4人を呼び出し、ソボエ領で上級学校の夏大会の為、薬草採取をしているイツキの元へ至急向かうよう指示を出した。
「フィリップ秘書官補佐、ヤマギ国境警備隊副隊長、ハモンドレガート軍少尉、レクス王宮警備隊少尉、予定より早い出発になった。何があってもイツキ君、いやイツキ治安部隊指揮官補佐を守り抜け!それが今回の任務を成功に導くのだ。表向きはフィリップ秘書官補佐が指揮を執るが、君たちは全員イツキ君の指示に従うように。軍の馬車を使い夜明けには出発せよ」
40歳を越えたとは思えない精悍な顔立ち、鍛えられた体躯を保ち、鬼の司令官と恐れられているレガート軍トップのギニは、祈るような気持ちで命令する。
「「「「はい、了解しました」」」」
敵である【ギラ新教】と戦うイツキを守ることを優先しながら、イツキの指示に従いロームズの住民を解放する。それが4人に与えられた任務である。
5月19日、ソボエに到着した4人は、いつものイツキの無茶ぶりに驚きながらも笑顔で合流し、フィリップはソボエ領主の屋敷で、ロームズからの知らせをイツキに見せた。
知らせを見たイツキは翌日直ぐに旅立つ決心をし、簡単な行程を4人に告げた。
レガート国の飛び地であるロームズは、隣国カルートの中にあった。
最短のルートを通行して馬車を使っても、王都ラミルからロームズの町までは、最低8日は必要だと言われている。
途中にあるレガートの森は魔獣が出るため、出来るだけ静かに通行することが望ましく、馬車で通行すると間違いなく魔獣に襲われる。その為、普通の旅人は大事をとって別のルートを使う。
しかし今回は、投石機設置の部材を大量に運ぶ為、出来るだけ短距離、短時間で目的地に到着するルートが選ばれた。
ソボエを旅立ったイツキたち5人は、21日の夜レガート軍ミノス基地に到着した。
同日到着していたレガート軍技術開発部の、投石機(キアフ1号)設置部隊20人と合流し、早速作戦会議が行われた。
投石機設置部隊は技術開発部から3人、国境警備隊から15人、治安部隊から2人の合計20人から成っている。
今日のイツキは【治安部隊指揮官補佐】として会議に出席している。
「今回の任務の最大の目的は、ロームズの町の国境に投石機を設置することだが、実はもう1つ大事な任務が出来た。それについて、ヤマギ国境警備隊副隊長から説明がある」
会議の冒頭で挨拶をしたのは、技術開発部部長のシュノーだった。
シュノーは透明感のある優しい緑色の瞳でヤマギを見て、いつもの技術者らしい表情ではなく、レガート軍の一員であり指揮官と同じ地位に就いている部長として、厳しい顔で皆に告げた。
本来技術開発部部長自らが、投石機の設置の為に隣国カルートまで赴く必要などないのだが、同じ【キシ組】で幼馴染みであるフィリップから、イツキがロームズ行くと聞いて、どうしても自分が行くと言い出したのだった。
「ことの起こりは4月末にロームズの統治官から届いた報告書だった。その報告書にはロームズの住民に反乱の兆しありと書かれていた。そこで王様は、住民には決して手を出すな、6月中旬に調査官を向かわせると返答された。だが、今回の投石機設置の件は統治官には知らせていない」
ヤマギ国境警備隊副隊長は、そもそも急いで投石機を設置することになったのは、ロームズの様子を探る為であり、統治官からの報告に疑問点が多かったからだと説明する。
国境警備隊の中で最も怖い顔で、軍内でも恐ろしい上司と名高いヤマギは、国境警備隊15名の部下に、投石機を設置しながら密かに町の様子を探るようにと告げた。
「先日ロームズに潜入していた【王の目】の者から、ロームズの様子を知らせる手紙が届いた」
そう言いながら立ち上がったのはフィリップ秘書官補佐である。他の全員も立ち上がり、この場で1番の上官に頭を下げる。
フィリップはロームズから来た手紙を、テーブルの上に取り出し置く。
「領主の屋敷建設自体、明白な越権行為です」(技術開発部コウヤ)
「これは、明らかに統治官の様子がおかしいですよ」(国境警備隊ボブ)
「抗議を受けただけで町長を捕らえるとは、行き過ぎた処罰です」(治安部隊ルド)
「教会の祈りを禁じるなんて・・・」(国境警備隊イグモ)
手紙を見た隊員たちは、口々にロームズの統治がおかしいと意見を言い始める。
まあ誰が見ても不可思議なことが書いてある訳で、これから向かうロームズの混乱ぶりが見て取れた。
「そこで我々別動隊は、先にロームズに入り様子を探る。反乱を阻止し、ロームズの住民を守ることを第1の任務とする。よって、これより先は私が指揮を執る。ただし、作戦を考えるのはイツキ治安部隊指揮官補佐である」
そう言いながら手で合図し皆を座らせる。今日もグレーの長い髪を後ろで括り、整い過ぎる美丈夫な外見からは考えられない、冷酷さで名を馳せているフィリップである。1度見たら忘れられない金色の瞳は、【王の目】として貴族たちの不正を決して見逃さない。
そんなフィリップは、ブルーノア教会のリース(聖人)であるイツキを守る使命を、神から与えられた男でもあった。
「治安部隊指揮官補佐のイツキです。初めてお会いする方もいらっしゃると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
漆黒の髪を短めに切り、大きな瞳は黒蝶真珠のような輝きを放ち、全体的に整っている顔は少女のようでもあり、とても剣や体術の腕が天才的だとは見えない。なにせ身長が166センチで華奢、軍の猛者の中では明らかに小さいイツキである。
20人のメンバーの内、イツキを知っているのは半数の10人。最近ちょくちょくお邪魔している技術開発部の3人。国境警備隊の5人は、春休みに行われた投石機の試投実験で会っていた。治安部隊の2人は元々【奇跡の世代】なので、軍学校の武道場で会っている。
イツキを知らない者は半数の10人居たが、レガート式ボーガンと今回の投石機を作ったのがイツキであること、そしてヤマノ領で【ギラ新教徒】を捕らえられたのは、イツキの働きがあったからだと、ミノスに来るまでの道中でシュノー部長から聞いていた。
しかし、実際に本人を初めて見た10人は、どう見ても少年のイツキにかなり驚いた。
『こんな子どもが武器を作ったのか……』とか『ヤマノ作戦を助言した学生……』とか『キシ組の懐刀……』等と、心の声が表情にだだ漏れていた。
それでも、治安部隊指揮官補佐という役職は、フィリップ、シュノーに次ぐポジションであり、国境警備隊副隊長のヤマギよりも上だった。
軍では階級が全て物を言う。見た目が完全に少年だろうと関係ない。
「今回のロームズ反乱の知らせにの裏に、【ギラ新教】が関わっている可能性があります。恐らく間違いないでしょう。【ギラ新教】の目的はまだ分かっていません。僕の推察では、ロームズの住民に反乱を起こさせ、合法的に住民を始末し、ロームズを乗っ取ることではないかと思っています」
「「「 えええぇぇぇーっ!!!」」」
「ロームズの乗っ取り!?」
驚いて立ち上がったのはシュノー部長だった。他のメンバーは叫んでから絶句した。
1098年5月22日早朝、イツキたち25人はレガート軍ミノス基地を出発した。
2頭だての荷馬車が2台、前衛は国境警備隊の5人、後衛はイツキたち別動隊の5人。残りのメンバーは荷馬車を囲むように配置されている。勿論、イツキの相棒であるハヤマ(通信鳥)のミムも、上空を優雅に飛びながらついてくる。
ミノス基地はレガートの森に近い場所にあったので、森の入り口まで徒歩2時間の距離である。
森の手前30分の場所に、国境警備隊とレガート軍の検問所があり小休止する。
「あれイツキ先生!軍学校に帰られたんですか?で、今日はまた……凄い皆さんとご一緒にカルート国へ行かれるのですね」と、軍学校の先生時代の教え子に声を掛けられた。一緒に旅をしているハモンドとレクスの1年後輩である。
「ハハハ、ちょっと勉強にね。仕事頑張れよ!」と返事をして出発した。
教え子との会話を聞いていたメンバーの中には、イツキが軍学校の先生をしていたことを知らない者が居て、レガートの森までの30分間、いろいろ質問攻めにあった。
当然のように、ハモンドとレクスが楽しそうに昔話をしてくれたので、イツキの説明は必要なかった……
ようやくレガートの森の入り口に到着し、イツキとハモンドは隊列から離れ、街道を脇へと入っていく。
イツキの友だち、空飛ぶ最強魔獣ビッグバラディスのモンタンに会うために。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。