ある子供のお話
子供は夢を見ていました。
漫画で見た登場人物のように人に優しい大人になることを。
映画で見たような勇敢な大人になることを。
アニメで見たような愛する心を持つ大人になることを。
子供は思っていました。
いずれ自分は立派な大人になれるだろうと。
小説の登場人物のような日々は送っていない。
けれど自分の日常を精一杯生きていればなれると。
純粋に、ただ純粋に思っていました。
けれどある日、子供は気付きました。
漫画で見た、憧れた登場人物の真逆になっていることに。
映画で見た登場人物の真逆になっていることに。
アニメで見た登場人物の真逆になっていることに。
子供は気付きました。
自分が人に優しくする理由は、相手に見返りを求めているから。
自分が勇敢に振る舞っている理由は、良く思われたいから。
自分が何かを愛するのは、そうすることで評判が良くなるから。
子供は愕然としました。
いつの日か夢見た大人からかけ離れていることに。
子供は絶望しました。
浅ましい大人に成長してしまったことに。
大人になることはこういうこと。
そう思っても、子供は自分に絶望しました。
例えそうだとしても、なりたくなかった。
子供は悲しみを抱きながら生きていく。
理想と現実の大きな違いに。
自分が夢見た通りに成長できなかったことに。
今日も子供は生きていく。
子供のまま、大人になってゆく。