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本箱の味方  作者: 髙橋 翔太
才能の塊の行方を追って
9/21

気まずい男の勝負の審判員


それから数日が経って『本棚整理会議』が開催された。



「今回の司会は私がやらせていただきます。」



今日の司会は吉岡さんの担当だった。

吉岡さんはこっちを見てニヤニヤすると、手に持っていた漫画をまるで物的証拠を見せ付ける名探偵のように掲げると、

会議室を歩き回りながら演説を始めた。



「え~ 司会者の特権を利用させていただく形となりますが、先ずは私のプレゼンから会議の開始とさせて頂きたいと思います。」



この会議にいつもムーは参加しない。

会議が終った後に推敲する予定の本を見て、持って行く人の目を見て、

ただ頷いて、高嶋さんに爆弾を作るように指示を出す。


「私はこの本を推敲したいと思っております。 ちなみにマンガで~す。」


会議室では所々で「あぁ~ パステルねぇ~。」なんて声が聞こえている。



「今回は、私とマットと先生の男3人で、旅に出たいと思いま~す。」



すると、僕の向かいの席にいた内藤さんは立ち上がって、



「ちょっと待て。 俺はそんな話は聞いてないぞ!」



僕はビックリして思わず立ち上がった。


「えっ? 内藤さんに話はしてないんですか?」


「んまぁ… そこはだなぁ~。 阿吽の呼吸と言うか、以心伝心と言うかなんと言うか。」


吉岡さんは少し動揺したようだったが、直ぐに表情を変え、


「でも先生はわざわざ拒否する理由ないでしょ? ま~さ~か~ 静香ちゃんだけ同伴オッケーで、俺たちは爪弾きで蚊帳の外って訳?」


バチバチと火花の散る2人の舌戦が繰り広げられる。内藤さんは感情を押し殺し、至って冷静に切り返す。


「…そもそも3人で行く必要がないだろ?」


そんな内藤さんが少し前のめりになっても吉岡さんは全く引かずに言い返す。


「女の子と2人なら別だけどってこと?」


もしかしたら軽く返事をしてしまった僕は最悪のハズレクジを引いてしまったみたいだ…

これから長い間、この2人のいざこざに付き合わなくちゃいけないのか…


色々と口論になった後に、内藤さんが押し黙る形で収束して、結局は3人で推敲に向かうことになった。

あぁ~ 先が思いやられるなぁ~。





今回はムーもメルヘン爆弾を作ることを少し渋ったらしい。


吉岡さんは、何度かムーの居る責任者室へ行っては、推敲内容の説明をしたり、熱い想いをブツけたりしてやっとオッケーを貰ったみたいだった。


僕は何でこんなに吉岡さんが、この推敲に情熱を持っているのかまだわからずにいた。それも男3人でこの推敲に挑む事の意味がわからずに、僕はこの推敲に参加することになってしまった。


でも何となくわかる事は、わかっていないのは僕だけなんだろう。




なんて考えながら小説コーナーの陳列を直していると、後ろに立っていた内藤さんが、


「あいつは俺に因縁があるんだろうな。」


その内藤さんは、いつもの冷静な表情ではなかった。

表現が難しいが、何だか人っぽい顔をしていた。



「因縁って聞いてもいいですか?」


「それはたぶん、あの漫画を推敲すれば痛いほどわかるよ。俺はあいつが何を言いたいか、もう何となくわかってるんだけどな。」


そう言い残すと内藤さんは、従業員入口から裏へ入って行った。

きっとこの推敲は、内藤さんと吉岡さんの戦いで僕は差し詰めその審判というところなんだろう。





そして何だか気の進まないまま推敲に入るその日になった。何だかずっと変なテンションの吉岡さんは、


「さあさあ。男3人旅に出発しますかぁ~」


パステルは全5巻の短い漫画で、少年漫画ではなくビジネス誌のようなモノに連載されていたらしい。詳しくないからよくわからないんだけど… 「ヤングなんとか」に連載されていたような…


「じゃあ… この作品に最良の結末が訪れる事を祈りつつ、推敲を開始したいと思います。」


内藤さんは5巻の漫画を地面に置くと爆弾を投げつけた。

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