僕の家族ときたら…
「ただいま~」
家に帰るとお母さんもお父さんもビックリした顔で、僕を迎え入れた。
そりゃあ喧嘩なんて生まれてこの方、したことのない僕が、顔を腫らして帰って来たんだからビックリもするだろう。
しかし我が家の脳天気たちは、何故かあれよあれよと言う間に、
ある種、パーティのように盛り上がり、お父さんは普段は飲まないお酒なんかを引っ張り出して嬉しそうに呑んでいた。
「お父さんも若い頃はヤンチャだったからなぁ~」
「今は見る影もないけどね。」
こうなるとみんなに「今日、起こった事を話したい欲」が、自然となくなっていくから助かる。
「陽太も遂に不良デビューかぁ~」
「えっ? 兄ちゃんが不良? どっかでコケただけだろ?」
弟が茶化すとお母さんは真剣な顔をしてあいつの方に向き直り、
「いえ。転んで首元をぶつける事はありえません。」
僕は必死に言い訳を考えていたが、たまに、お母さんの無意味な推理力は想像を超えてくる。
取り繕って嘘を吐くよりは何となくその場の雰囲気に合わせる方が身の為だろう。
僕は話題を変える為にお母さんに質問を投げた。
「尾崎さんのお母さんと仲良かったよね?」
「…え? オザキサン?」
しまったぁ… みんなには立花さんって言わないと通じないんだった… 慣れるまで時間がかかりそうだな。
「立花さんって言ったよ。」
こうなりゃ無理矢理に押し切る作戦!
「あぁ! 優子ちゃんママね~。そういえば優子ちゃんってアルバイトし始めたんですって。」
お母さんが前のめりになって話しを始めてくれて作戦は成功したが…
もう1つあった憂鬱な報告を思い出す結果になってしまった。
僕もその優子ちゃんと同じバイトを始めたんだった。
「陽太は優子ちゃんと仲良しだったわよね?」
「うん。中学と高校が一緒で今は同じクラスだからね。」
「ん? 付き合ってるの?」
「違うよ! そうじゃなくて実は…」
「あっ! 同じ所でアルバイトしたいんだ~!」
やっぱりお母さんには、隠し事は出来ない気がする。
「そうなんだよ。小判ホームで…」
そう言うと沈黙が家族を包みこんだ。
重苦しい時間が、脳天気な家族を押しつぶすようにのしかかっている。
この沈黙を破ったのはいつもは陽気なお父さんだった。
「バイトはいいが…」
お父さんは難しい表情をしていた。お説教をする時も、いつもは笑顔で諭すお父さんの表情が消える。
「言うのが遅くなってごめんなさい。」
「う~ん。」
お父さんの表情はやっぱり曇っている。
やっぱり急に相談もなしに「アルバイトします。」なんて言うのは非常識だったなぁ~。と俯くと、
「陽太。小判ホームって俺の会社で神隠しの噂があるんだよ。真相を調べてきてくれないか?」
「あっ! その話なら私も野村さんから聞いたわ~。」
はぁ… やっぱり僕の家族も高見市民なんだなぁ。