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本箱の味方  作者: 髙橋 翔太
可能性を信じて答え合わせの旅へ
14/21

内藤さんのイメージの結晶の中へ


僕は直ぐに今回の推敲内容の説明とメルヘン爆弾を作ってもらう依頼をしに、ムーのところへ行った。


「何だか山本くんが入ってから内藤くんは少し変わったね。」

「そうなんですか?」


ムーはにっこりと微笑み、僕の顔をじっと見ながら、


「やっぱり君は面白いよ。 選んでよかった。」


ムーは今回の推敲を快諾してくれて、すぐにメルヘン爆弾を用意してくれる事を約束してくれた。



「失礼致しました。」


扉の前で一礼し、ムーの責任者室を出ると、目の前には内藤さんが立っていた。



「今回の推敲をムーは二つ返事で快諾したんだろ?」


こういう時の内藤さんの目は機械仕掛けのように見えてくる。


「はい…」


「俺は、あいつが『本箱の味方』に入ったのは、きっとこれを直したかったからなんだと思うんだ。」

「吉岡さんのことですか?」


「そうだ。前回の推敲が何か引っかかっていたのは、きっとあいつの本当の意図を見つけ出せなかったからなんだと、ようやく気付いたよ。」

「本当の意図?」



機械仕掛けの内藤さんは発する言葉も理路整然とし、道筋を立てて自分の言いたい事への誘導がはっきりと見える話し方をする。


「きっとあいつは作品の末路がどうとか、努力の価値がどうとかそんなことはどうでもよかったんだ。」


僕も引っかかっていた何かが、内藤さんの言葉で喉をスッと通っていくような感覚になった。



「…つまり僕を試したと言うことですかね?」



内藤さんは片側の口角をグッと上げて、


「推敲の前の段階で、ムーが俺とあいつで一緒に推敲に行くと言うのを渋った時に、きっとあいつは『スレイプニルの谷』に関しては、メルヘン爆弾を絶対に与えられないと気付き、そしてあの仮想空間でお前なら言うと、そう確信したんだろうな。」


僕は次の言葉が浮かばなかった。


「お前と俺の関係の構築にスポーツモノをあえて選んだとしたら、あいつもやっぱり切れ者だな。」



「そこまでして吉岡さんは何を推敲したいんですかね?」


僕はそんな機械仕掛けの内藤さんに、少し意地悪な質問をしてみる。


「ここまでの執念が理解出来てたら、俺は作家を続けてるよ。」






不審な気持ちのまま僕は推敲する当日を迎えた。

僕と内藤さんは小判ホームの入口の鍵を開け、開店前の誰も居ない店内を揃ってバックヤードを目指して歩いていく。

開店前の店内はただただ無音がBGMとして流れ、何の会話もない僕達を引き立たせる役割を果たしていた。


何だか僕は断頭台に立つ準備をしているかのようにただただ淡々とその舞台へと進んで行った。

僕は内藤さんを先導する形で前を歩き、内藤さんの表情を確認できない事を後悔しながら扉の前に立った。


重い扉をゆっくりと開き、広い部屋の真ん中に僕らは立つ。

僕はここ数週間ずっと手放さず読んでいた新書本の『スレイプニルの谷』をゆっくりと床に置き、小脇に抱えていたメルヘン爆弾を右手に持ち替えた。


「もう僕はこの作品を推敲すると決めたんです。 一緒に良い方に打っ壊しに行きましょう!」

「そうだな! 俺ももう覚悟を決めた。」


僕は気合いが入り思いっきりメルヘン爆弾を振りかぶって投げつけた。


「おりゃ~~~!」


メルヘン爆弾は『スレイプニルの谷』にぶつかり大爆発を起こす、そして僕らは爆発の煙に巻かれ、内藤さんの脳内へ旅立っていく。










「…きっとマットならやってくれるわな。」


大爆発を起こした部屋の外には吉岡が立っていた。

そんな事を小声で呟くと廊下の端から、


「やっぱり吉岡くんは気になってここに来ていたか?」


ムーは両手を組むように腰に当て、決して急がずゆっくりと吉岡に近付いて来る。


「はい。 でも前回の推敲で、マットの良さは痛いほどわかりましたから、心配はしていません。」

「それにしては、寂しい顔をしているじゃないか?」


吉岡はムーの顔を直視せず、ただただ2人の入って行った部屋の重たい扉だけを見つめて、何だか言いづらそうな感じでぼそっと呟くように言う。


「…きっと思春期の娘を家で待っている気弱な父親の気持ちなんだと思います。」


ムーは吉岡のすぐ横に同じ姿勢で扉を見つめながら寄り添った。

そして少し微笑み、


「でも父親ならきっと娘を迎えに行くし、連絡もする。」


ムーは、何時でも答えを知っているような態度で、彼ら諭している。


「…俺は自分で推敲しに行くのが、怖かっただけかもしれません。」

「娘を信じて待つ父親は賢い父親だ。 その優しさに相手も答えてくれるよ。 きっと時間と言うのは、変わらないところが良い所で、変わっていくところが。良い所なんだよね。」


「ムーと居ると、本当に本箱には味方が居るんだなと、心から思いますよ。」


吉岡は安堵したように微笑み、横目でムーを見返す。


「嬉しいけど違うよ。本箱の味方なのは、ここにいるチームの事じゃないか。」


そう言うと2人は、微笑みながら、扉の先にいる本箱の味方を見つめていた。



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