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本箱の味方  作者: 髙橋 翔太
可能性を信じて答え合わせの旅へ
13/21

僕の一大決心


僕はあの「パステル」の推敲以来、ずっと同じ本を読み返している。

そしていつも「う~ん。」と唸ったり、また同じ場所を何度も読み返したりしている。



僕が「本箱の味方」に入ってからみんな活気付いているみたいで…

メルヘン爆弾を作っている高嶋さんはなんやかんやで、てんやわんやになっていると言う噂だ。



「結局、納得して直さずに帰って来るんやったら、わざわざ爆弾を使う必要ないやろ!」



なんて怒号がよく聞こえてくるようになってるんだから噂は事実のようだ。



「メルヘン爆弾を作るのも簡単じゃないねん! 毎週のようにしっかり会議すんねやったら、その場でしっかりを考えて、内容を計画して煮詰めてから行けや!」



尾崎さんと静香ちゃんは怒られているのに何とも言えない表情をしていた。

推敲をしに行った「本箱の味方」達はそれぞれ納得をし、清々しい気持ちで現実世界に帰って来る。

僕だけは高嶋さんの「自分達だけ清々しい顔しやがって。」と言った後の刹那の微笑みを見逃しはしなかった。





僕はとある日の仕事の後に、オフィスルームの壁にあるカレンダーを凝視していた。

「今週の司会は…」と目で追うとそこには「内藤」とこれまた一番、当たって欲しくない人の名前が書いてあった。



「これは揉めるかなぁ…」



そんな独り言を呟いても、僕はこの会議でプレゼンをすることを決心していた。






そしてその日はやってきた。全員が集まり会議が始まる。


「では、まずプレゼンをしたい方は居ますか?」


内藤さんらしい淡々とした口調で、会議の口火は切られた。

先ずは尾崎さんが手を上げる。


「前回の推敲で、ここでどんなに討論しても討議しても、実際に本の中に入ってみないと物語の本質や作者の苦悩がわかんないなんてことは沢山ありそうだって事が痛感できたわ。」


おっ! これからの僕のプレゼンがやり易くなるナイスアシスト!


「私は今回は何もないわ。」


尾崎さんが言うと静香ちゃんも後に続き、


「私も沙希ちゃんと一緒で、今回は特にありません。」


別に順番が決まっているわけじゃないけど時計回りに僕の順番が来た。



「僕も実際に本の中に入って、確かめたい事があるんです。 今回は内藤さんと。」



「あいつの男三人旅から、こんな突然のご指名が流行ってる訳じゃないよな?」

「でもこの、ここのタイミングで言わないと… 内藤さんに断られそうで…」


そう言うと吉岡さんは突然に立ち上がり僕の手を握って、


「わかる! わかるよ~。 その気持ち!」


内藤さんは吉岡さんのそんな一言を無視して僕に、


「それで今回の推敲に選んだ本は何なんだ?」


僕は吉岡さんの手をそっと解き、内藤さんの方へ向き直った。

僕は刑務所から出て久々に娑婆の空気を吸い込むように大きく息を吸い込んで、意を決し、ずっと決めていた台詞をぶつける。


「推敲に行きたい作品は『スレイプニルの谷』です。」


さっきまでの吉岡さんが作ってくれた和気藹々とした空気は一瞬にして凍りつき、親鳥の帰りを待つひな鳥の様に、誰もが次に内藤さんから与えられる一言を、今か今かと待ちわびていた。



「…」



それでも僕は内藤さんの顔色を伺いつつも提案を続ける。


「前回の推敲で僕も思ったんです。きっと全て物語には「最高の結末」が用意できるはずで、それが失敗すると、誰かが悲しい思いをする納得の出来ない作品になってしまう。この作品は何度、読んでもいい作品だから、この作品の中に入って戦いましょうよ。尾崎さんや静香ちゃんが言ってたみたいに、実際に入ってみないとわからない事も、多いと思うんです。今回は僕と一緒に来て下さい。」


そう言い切ると、内藤さんの表情が変わったのが見えた。

何だか吉岡さんと話をしている時のようだった。


「…そこまで言うならお前に付いて行ってやるよ。別に何も変わらないだろうけどな。」


何だか諦めたように、この推敲への参加を快諾してくれた。



「ありがとうございます!」



僕が頭を下げると静香ちゃんと尾崎さんが拍手をし、直ぐに吉岡さんも続き、鳴り止まない拍手が巻き起こった。


「おい! 何で拍手するんだよ。」


そんな怒っている内藤さんも少し顔を赤らめて、照れくさそうにしていた。

僕の決死の挑戦は成功で幕を閉じたのであった。



めでたし。めでたし。



…本当の挑戦はここからなんだけどね。

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