蝉の生息する地域
祖母が亡くなったので帰省した。八月末、茹だるような暑さとがなりたてる蝉の鳴き声がただ不快な晩夏のことだった。
都心から四時間と少し電車を乗り継ぎ、歴史建築とさえ呼べる古びた駅を降りて、さらに一時間歩く。典型的な田舎に建つ典型的な地主屋敷、およそ五年振りの本家は当時と変わらずそこに在ったが、主を喪った城はあの頃よりも幾分か小さく見えた。玄関をくぐると、分家筋の狸親父達に迎え入れられた。相変わらず本家の資産をなんとか掠め取ろうとしているようで、難敵であった祖母の死は彼らにとっては僥倖以外の何物でもないようだった。蝉の声がうるさい。
通夜、読経と焼香を終え、喧しい狸達の酒と話を躱し庭に出る。今日ここに満ちる声も、式が終われば嘘のように消えて、後には空虚が残るのみだろう。この爺達の宴も、蝉の声のようなものだ、と思った。ただ不快なだけの声であろうと、空虚よりかは幾らかマシなはずだ。
夏が終わる。秋と冬と春を過ごせば、来年もまた夏は来て蝉は鳴くのに、この宴の後に訪れる空虚は、もはや取り返しのつかないもののように予感された。