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変態という名の未確認生命体

 

 飛鳥と蛍斗のいた教室、1年4組の教室からかなり離れた西側の女子トイレ。ばしゃばしゃと水がはねる音が聞こえ、きゅっと蛇口をひねる音も聞こえた。

 どうやら、トイレに駆け込んで泣いてしまったらしい。目元が若干赤く腫れている。


 

 「どうして気付いてくれないのよ……」



 そう呟いて、飛鳥はその場にへなへなとしゃがみ込んだ。


 私は蛍斗の事が好きだ。

 それはもう、幼い頃から続く片想い。幼稚園からずっと一緒で、家も隣同士だし、よく家族ぐるみで一緒に遊んでいた。

 いつから蛍斗の事を意識していたかなんて、そんなのもう覚えていない。けれど、物心がついたころから、その瞳はずっと蛍斗の事を追いかけていた。私と蛍斗の事をよく知る友人とかは、「いつまで追いかけんのさ」とか「そろそろ諦めたら?」とか言ってくる。私だって何回も忘れようとした、諦めようとした。中学校の頃は彼氏を作って、彼に打ち込もうとした。

 …だけど、無理だった。彼の事が嫌いだったわけでも、好きじゃなくなったわけでもないのに。どうしても、真っ先に頭に思い浮かぶのはあいつの顔だった。

 どこか頼りなくて、でも底なしに明るくて、真っ直ぐな蛍斗が、今でもずっと大好きだ。

 そんな蛍斗には高校に入って、中学校から続けていたバスケを続け、今では男子バスケットボール部所属。そして、同じ1年生の女子バスケットボール部に彼女がいる。私なんかよりもずっと可愛い、女子力の高そうな、蛍斗とお似合いの美少女だ。


 そう考えていると、また目じりに涙が浮かんできた。

 今まで告白をしようとしたことがないわけではない。ただ、小学校3年生の頃一回蛍斗に告白をし見事玉砕してから、飛鳥はなぜか想いを伝えきれずにいる。



 「この意気地無しっ、何で一回フラれただけで諦めんのよ!!」



 そう言って鏡に映る自分の顔をパンチしてみたものの、痛くなるのは自分の拳と、自らにそう言われた自分の弱い心だけだった。

 蛍斗に美人の彼女がいることも、自分が蛍斗の事を諦めきれずに想っていることも、それに蛍斗が気付いてくれていないことも、全てわかっていたから、飛鳥にとってさっきの言葉は胸に刺さったのだ。



 「好き。………ばか」



 ここで言ったって、通じるわけないでしょ。


 飛鳥は鏡の中の情けない自分に向かってそう律した。



 「いやあ、青春青春。まっぶしいねぇ~」



 誰もいないはずの女子トイレに、突如、そんな声が響いた。しかも、男。



 「はっ?!誰??!!」



 驚いて便所の方に振り向く飛鳥、しかしそこには誰の姿もなかった。

 「だ、誰よ…出てきなさい」と小さく呟きながらおそるおそる一番手前の便所の扉を開けようとする飛鳥、思い切って開けた扉だったがその中にはやはり誰の姿もなく。不審そうに眉をひそめる。すると、その右肩に誰かの手が触り、ぽんぽんと叩かれる。瞬間的にそちらの方に振り向くと。


 ぷにぃっ


 そんな音が聞こえてきそうなほど丁度ぴったりの場所、飛鳥の右頬に誰かの人差し指が突き刺さった。



 「うわ、やっわらか…マシュマロみたいだね」

 「な、何すん―――」



 怒り心頭といった表情でその指の持ち主を見ようと目を上げた飛鳥だったが、そこで硬直してしまった。

 いつの間にか自分の隣に立っていたその人物。…人物と呼べるかどうかも定かではないソレは、正にUMA。未確認生命体のソレだった。

 外国の映画で見るような生糸のように艶やかで美しい金髪に、海のように澄んだ青い瞳。それだけでも十分怪しいのだが、その着ている服がさらに異様さを引き立てていた。高そうな布で作られたその衣装は、雪のように純白なフリッフリのフリルのついたブラウスに、王子様のようにかっちりとした真っ白の燕尾服。そして、首からは大きな金製の十字架のネックレスを下げている。そして、極めつけはそのUMAの後ろにある謎のもの。



 「チャオ、美しいお嬢さん。恋の悩み事ならこの俺が聞いてあげようか。こう見えても、俺恋のキューピットには自身があるからさ」



 未確認生命体は謎の言葉を口にして、意味不明なウインクを残し、背にある鳩の翼のような白いものをゆっくりと動かした。

 唖然と固まっていた飛鳥は、その一瞬でこの状況を冷静なものに捉えるべく頭の中をシフトチェンジし、今自分がなすべき行動を三択にしてあげた。



 1、逃げる

 2、捕まえる

 3、撮る



 最初から話をするなんて選択肢のなかった脳みそが出した決断は、



 「え、なに、いきなり」

 「貴方を不審生命体を見なし、連行します」



 2、捕まえる。だった。



 「れ…どこに?」

 「とりあえずは職員室」

 「はあ?!ちょ、ちょっと、何言ってんだよ。俺を連れてった所で君に利益はない――」

 「ここに置いておくよりは利益があります」

 「あーもう、ちょっと一回止まれって!」



 UMAの服の袖を掴み女子トイレから連れ出そうとする飛鳥だったが、UMAは思いのほか強い力で飛鳥の手を振り払った。



 「お嬢さん、今の状況理解してる?てか、俺のこと何だと思ってんの?」

 「UMA」

 「ちっがーう!!」



 目の前でオーバーなリアクションをする外国人風の出で立ちのUMAを冷めた眼で見据える。



 「いい?よく聞けよ、俺は、天――」

 「はい連行しまーす」

 「最後まで聞けよ!!」

 「何ですかUMAさん」

 「だから天使、俺天使、わかる?天使、えんじぇーる」

 「アホらし」



 目の前のUMAは自らを天使と名乗った。背中の翼を見てそんなことだろうとは思ったけれど、実際聞いてみると本当にばからしく聞こえる。



 「…信じてないだろ、その目」

 「何言ってるんですか、当たり前じゃないですか。よく出来てますね、その仮装」

 「だから仮装じゃないっ―――って、……ま、それもそうか」



 飛鳥の言葉に目の前の自称天使クンはそう言ってうな垂れた。 

 




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