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「予想はしてたけど、やっぱりすごいわね」
「ですねぇ」
もう何度目になるのか、食堂の入り口前で二人は感嘆の声をもらす。
「もうこれ宿の食堂って名前じゃダメな気がするんだけど、その辺イヴはどう思う?」
「それは同意です。この内装は専門の高級飲食店と遜色ないと思います。正直宿泊業やらなくても、料理だけでやっていけるレベルです。これに宿の食堂って名称はなんか違うと思います。名称変更を私も要求します」
相変わらずの内装の豪華さに驚愕とあきれ半々といった様子の二人。しかしそれも致し方ないこと。空間を覆うのはしっかりと磨き上げられた真っ白な天井に横壁。加えて照明は当然のようにシャンデリアだ。
「やっぱりそうよね。さて、こんなことろで突っ立ってても仕方ないし、さっさと中に入りましょうか」
内装の評価もそこそこに、リリスは食堂の中にさっさと足を踏み入れる。そんなリリスの背中をイヴはすぐさま追いかける。そうして一歩食堂の中に足を踏み入れてみると。
「「「―っ」」」
いくつものぶしつけな視線がイヴたちを出迎えた。
「……ですよね」
イヴは心の中でまたかとそっとため息をつく。しかしそんな心の機微などまったく表には出さない。
先程『いくつもの視線がイヴたちを出迎えた』と表現したが、これは正確とはいえない。正しくは『いくつもの視線がリリスを見ていた』だ。今でこそすっかり慣れてしまっているイヴであるが、客観的な視点から言ってリリスという少女は美少女だ。それも『本当に人間か疑ってしまう』や『この世のものと思えない』などといった言葉が枕詞に付くレベルでの美少女だ。
そんなリリスとイヴは2年間も一緒にいたのだ。最初こそ気まずい思いをすることもあったが、この程度のことはもはや慣れた。『そういえば今日はセルゲイさんの馬車のおかげで街中での移動が楽だったなー』などと考える余裕すらある。
……まあ、いろいろ考えるのが面倒になった末の現実逃避だと言われればそれまでだが。
「あの、すいません」
そして当のリリスの方はというと、やはりまったく動じている様子はなく、普通に近くのウェイトレスに声をかけていた。と言うよりもリリスが動じている様子などこの2年間でほとんど見たことがない。
「え、あ、はい!」
ちなみにこのウェイトレスであるが、リリスを見て固まっていたうちの一人であると追記しておく。
「席は空いてるかしら」
「は、はい。2名様ですか?」
「ええ」
「ではお席にご案内します」
固まっているところにいきなり声を掛けられてびっくりしただろうに、きちんと業務をこなせるところはさすがプロである。しかし見た目10歳程度でしかない2人だけで入店している不自然さについて何も言及しない。それどころか考えにすらいたっていない様子である。ここは高級宿の中の食事処。普通であれば保護者の存在(もちろんいないのだが)を確認するべきであるところだろろうに。どうやらまだ驚愕から抜けきっていないようである。
「こちらへどうぞ」
そうこうしているうちに案内されたのは2人用の席。そのころなってようやくじろじろと見られている感覚が幾分ましになった。まあ、いまだにゼロというわけではないのだが。
イヴとリリスは特に気にする必要なしと対面になるように座った。
「ご注文が決まりましたらおよびください」
そうして2人分のメニュー表が差し出されたのち、ウェイトレスは一礼とともに席から離れていった。
「相変わらず注目の的ですね」
「うん、知ってる。何せ私美・少・女ですから」
こうやって自身の評価についてはっきりと言えるのはすごいと思う。
そしてなぜか『美少女』という部分をやたら強調された。
「なぜに美少女を強調するかな。そして相変わらずものすごい自信ですね。全く否定できないところがあれではあるんですけど」
「ふふっ、いついかなる時でも的確な評価というものは大切なことですから」
リリスはいたずらっぽく笑いながら言う。その様子を見るに、先ほどの発言もその場のノリといった側面が強いのであろう。実際リリスは普段から自身を指して美少女だなどと公言するような人間ではないし。
……まあ同時自身が美少女でないなどとも絶対に言わないのだが。そのあたりは自己評価は正確であることに加え、無駄に否定しても嫌味にしか聞こえないだろうこともきちんと理解しているゆえであるが。
「さてと、このままおしゃべりをしてるのも続けるのも楽しいけど、それより早く今日のご飯を決めちゃおっか」
「はーい。それもそうですね」
イヴの返事をリリスが聞いたのち、2人はメニュー表に視線を向けた。




