<2-9>
「ところで夕食はどうしますか?」
あれからしばらく経ってからのこと。部屋の中には騒ぎ疲れて少しぐったりしているイヴとリリスの二人の姿があった。
「あぁ、そういえばまだだったわね」
イヴの言葉に、リリスは窓の外を見る。赤かった空が今ではほとんど黒色に染まっていた。
「そうです、そうです。なんだか少し疲れちゃったので、私はそろそろご飯食べたいです」
「……ご飯が食べたいには同意するけど、この疲労に関しては誰が原因だと思ってるのよ」
「ははは。細かいことは気にしちゃダメですよ、リリスちゃん」
「……えぇぇ。イヴがそれ言うの?」
イヴの言動に自然とジト目になるリリス。しかしそんなリリスの視線もどこ吹く風とばかりに、イヴは笑ってごまかす。
「まあまあ、そんなことは置いておいて早く今日の夕食について考えましょう。外で食べますか?それとも宿の中の食堂で食べますか?」
「はぁ。まあいいわ、夕食について考えた方がよほど建設的ね。そもそもの話それ考えるためにイヴ起こしたんだし」
「あ、そうだったんですか・それでは予定通り、夕食をどうするか決めちゃいましょうよ」
こうしてようやく予定通りに夕食の話し合いが始まる。
「とりあえず私の意見としては、宿の食堂ね」
「ん?どうしてですか?」
「考えたり移動したりするのが面倒だから」
「……」
始まったが、早々に残念発言が飛び出した。
「えぇぇ……」
イヴは再びあきれ交じりのジト目をリリスに向ける。
「なによ、その何か言いたそうな目は?」
「なにって、リリスちゃんの発言があまりに残念だったからに決まってるでしょ」
リリスが何か言ってくるが、イヴはじとーっとしたまなざしをリリスに向けるのをやめない。
「はぁ。もちろん冗談よ、冗談」
「……本当に?」
「もちろんよ。本気度で言えば5割くらいなものよ」
「やっぱり半分は本気だったんですね……」
リリスによるがっかり発言の連続に、そろそろイヴは疲労を感じ始めた。
旅に出てから知ったことなのだが、それなりの頻度でリリスは発言が残念でありがっかりなのである。これは長きにわたる監禁生活がもたらしたリリスの精神への悪影響……だったりはもちろんしない。イヴが2年前に研究所に捕まっていた時のこと。あの時イヴは精神的ショックから、そのほとんどの時間を呆然自失の状態で過ごしていた。そしてだからこそ気付けなかった。リリスの語った昔話の中のリリス自身。今と方向性こそ違うが、リリスの言動が結構な頻度であれな感じ……というか、ありていに言って大変残念だったことに。そう、リリスの残念さは今に始まったことではない!
このリリスの本性に関して過去にイヴはこう語っている。『気づきたくなかった真実』だと。
「まあまあイヴ、そんな遠い目をしなくても。一応もう半分の理由もあるから」
「……そっちの方はちゃんとした理由ですよね?」
「ちゃんとしたって……私はいつもまじめだけど」
「あー、あー。その話は聞きませんよ。それこそなんかめんどくさそうですし。それに冗談を言ったすぐ後に、いつもまじめなんていう完全に矛盾した言動についてもつっこみませんよ!」
「そんな子どもみたいな話のさえぎり方しなくても。それにつっこまないといいつつ、その発言は完全につっこんでるわよ」
「つっこみません!あと私は14歳なのでまだ子どもと言っても問題ないです!」
イヴの発言に『えぇぇ……』とあきれまじりに思うリリスである。しかしイヴの方からしてみればリリスの発言こそ『えぇぇ……』と思うものであった。というか、実際のところすでに何度か言っているが。
「まあこの際何でもいいわ。話も進まないし、もう半分の方の理由も言うわね」
「お願いします」
イヴは切実にそう思った。
「別に普通の理由だけど、今から短い時間で当たりかはずれかわからないお店を探しても、楽しさ半減じゃない?そういうのは明日の日中にでもやればいいと思うの。こういう時間をかけて楽しんだ方が面白そうなものはそれ相応に時間を使った方がいいでしょ。別に急いでわけでもないし」
「まあそうかもですね」
「明日できることは明日する。そのくらいゆとりがあってもいいでしょ?」
「……その発言だけを聞くと最終的に何もしない人っぽいですね。実際に明日になったら、さらにまた明日とか言いそうな」
「私はちゃんとやる人だからいいのよ」
「まあそれは知ってますが」
「それで、結局イヴはどっちがいいの?」
リリスからの再びの問いに、イヴは口元に指を置きながら考える。
「そうですね―」
しかしそれもわずかな間のこと。
「私もリリスちゃんの意見でいいと思いますよ」
特にリリスの意見に対して不満はなかったので、イヴはすぐに肯定の意を示した。
「よし、ならそうと決まれば、早速食堂に向かうわよ」
「はい!」
ようやく夕食の予定が決まったイヴとリリスの二人。想定外に時間がかかったなと二人とも思いつつ、こんな言い合いもこれはこれで楽しかったし別にいいかと思う両者。
それからほどなくして、二人は食堂めざし仲良く並んで部屋を出て行った。




