<2-7>
普段よりちょい長め
≪3つの十字≫に到着したイヴたちは早速ロビーの受付で宿泊の手続きをした。
ちなみにその時の一部始終はというと。
「うわ、たっか」
「……す、すごいね」
こんな感じである。
ある程度は予想はしていたものの、ものすごい価格設定であった。とりあえず言えることは、普通の安宿ならここに一泊するお金で何泊……いや何十泊できるんだっていうくらいには高かった。
だがまあ値段のことを考えなかったなら確かに、雰囲気もよければ、広くて中心街に近いという事前にリリスが言った条件にも合致する。合致しすぎていると言えなくもないが……。ともあれ、イヴとリリスは値段にこそ驚いたものの、ほとんど時間を使うことなく今回の宿を決めた。少女の二人旅、どうせなら楽しまなければ損だ。それにお金なら有り余る程度にはある。多少の出費程度、痛くもなんともない。
そんなわけで、特に何事もなく(少女二人ということで一瞬怪訝な目はされたが)無事に宿泊の手続きを済ませたイヴたちは、今案内された部屋の中にいる。
「なんというか、もうすごいしか言えないよ」
「それは同感ね」
部屋の内装はと言えば、全体的に広々とし清潔感あふれたものとなっており、そこにゆったりとしたソファ、大きな机と椅子、それに到底一人用には見えないベッドが二つ置かれている。
「うわー、このベッドやわらかーい」
部屋に入って荷物を置くと、早速ベッドに腰かけるイヴ。するとその柔らかさや気持ちよさに思わず感嘆の声を上げると、そのままベッドの中に倒れこむ。
「確かに、いいベッドね」
するとリリスもイヴのすぐ横に腰かけると、予想以上のベッドの使い心地に賞賛の言葉を口にする。
「私はもうこのベッドだけでもここに泊まった価値があると思うなぁ」
「そうかもね」
イヴはベッドに寝転がりながらうれしそうにベッドの感想を言うと、リリスもそんなイヴの姿を楽しそうに見ながら同意の言葉を口にする。
「それにしても、これベッド一つでもよかった気もするわね」
そうしてしばしの間まったりとしていると、ふいにそんなことをリリスが口にした。
「あぁー、それは確かに」
そしてその言葉にイヴも肯定する。
この部屋にはベッドが二つある。それも到底一人用には見えないものが。もしもこの部屋に泊まるのが一般的な成人と同等の体格の持ち主であったなら、このベッドも『かなり広い』という感想ですんでいただろう。しかし今回この部屋に泊まるのは10歳児前後の体格しか持たない二人である。はっきり言って一人で寝るのには『過剰』であり『広すぎる』。
「でもでも、こんな広いベッドで寝るなんてレルタみたいに大きな街じゃないと絶対にないわけだしせっかくだし、これはこれで楽しもう!」
しかしイヴはリリスへの肯定の言葉に続けて、楽しもうと提案。
「いや、それでもこれは過剰だと―」
しかしリリスはなにがしかの言葉を返そうとするが。
「だったら!だったら、二人一緒に寝よう?そうしたら多少はどうにかなるんじゃない?」
イヴはベッドから起き上がると、これぞ名案とばかりにリリスの言葉を遮りリリスの方を見る。
一方リリスは、そんなイヴをしばらく見つめた後ふいに一言。
「イヴ……そんなに私と一緒に寝たいの?」
「……」
「……」
無言の空間が続くこと数瞬。
「何でそうなるの!?」
イヴの声が室内に響く。
「あれ?違った?」
それに対しイヴは不思議そうな顔をつくる。
「いや、だってリリスちゃんがベッドが広すぎるっていうし」
「うん、広すぎるとは思うわよ」
「だ、だったら」
「でもそれ、あくまで私の感想の一つなだけであって別にひとりで寝るのに支障があるとは全然思ってないわよ」
「え、えぇー」
イヴはどうしようもなく理不尽なものを感じた。そしてリリスの方に目を向けてみれば、楽しそうににやにやと笑っている。
「でも、イヴがそこまで言うなら一緒に寝てあげてもいいわよ」
「う、うぅぅ。リリスちゃんのばーか」
リリスの楽しそうな顔と言葉に、さすがにからかわれているのだとイヴは悟る。ついでイヴはこれ以上からからかわれてなるものかと捨て台詞とともにそっぽを向く。
「そんなに怒らないでよー」
「リリスちゃんはいじわるです」
「あはは、ごめんね。でもベッドが広すぎるって思ってのは本当だよ。だから―」
そこで言葉を切ると、リリスはほとんど密着するような距離までイヴに近づく。
「今度は私から言うね。一緒に寝よ、イヴ」
そうして今度はリリスの方からイヴにお願いした。
「…………わかりました」
そしてそっぽを向いていたイヴはと言えばほんの数瞬間を置きこそしたが、結局リリスのお願いを聞き入れる。なんだかんだで、多少からからかわれようがリリスのことが大好きなイヴである。
「さて、話も一段落したところで次のことをしましょう!」
ベッド騒動(?)が終わり二人がベッドの端に座りなおしたところ、リリスが再び言葉を発す。
「次のこと?」
「そう、次のことよ」
「はあ、なんですか?観光計画とか?」
「それは別に後でもいいわ。それよりも今やりたいことがあるわ」
「やりたいこと?」
リリスの言葉にイヴは首をかしげる。
そんなイヴの様子にリリスは首を一度縦に振った後、おもむろに口を開く。
「ええ。私は今とても……寝たいのよ!」
「……はい?」
「だから、寝たいの、私」
「いや、別に聞こえてなかったわけじゃないから」
「それじゃあ一緒に寝ましょう、イヴ」
「私もですか!?」
「当たり前じゃない?さっき一緒に寝るって言ったでしょ?」
「いや、確かに言いましたけど!」
「さっきの話だってこのために振ったんだし」
「え、そ、そうだったんですか?」
「そうだったのよ」
リリスの言葉にあ然とするイヴ。『さっきのそういう話だったの?』と思わずにはいられない。
「正直言って、私は歩き疲れた」
「途中から馬車だったよね?」
「それでもです!」
「えっと、まだ日も高いよ」
「だから何?私は今眠い。ついでに言うならここは宿。宿とは休むための場所よ」
「……なんだろうこの釈然としない感じ」
イヴは言葉通り釈然としない感じの顔をする。しかし何度も言うようであるがイヴはリリスが大好きである。なんだかんだでリリスに付き合ってあげるのがイヴである。
「イヴ、一つ言っておくわ」
「ん?なに?」
「あんまり生き急ぎすぎないことよ」
「……」
「適度に休憩をしつつ、ゆっくりといろんなことをする。そのくらいが丁度いいのよ」
「……」
「なにせ私たちには、それができるだけの時間がいくらでもあるんだから」
「……そうだね」
「そんなわけだから精一杯寝ましょう」
「……そこからその結論なんだ。なんだろう、今ので色々台無しな気がする」
そうして、イヴがなんだかげんなりしたところで二人は会話をやめる。
「それじゃあおやすみなさい、イヴ」
「正直微妙な気分のままだけど、おやすみリリスちゃん」
最後にそう言葉を交わしあうと、二人は同じベッドの中、夢の世界へと旅立った。




