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セルゲイを見送った後、イヴたちは≪3つの十字≫を目指し歩き始める。
「そういえばリリスちゃん、さっきなかなか馬車から降りてこなかったけど、セルゲイさんと何話してたの?」
歩き始めてすぐ、イヴはふと気になったことをリリスに聞く。
「ええっとね……さっきイヴが倒した魔物についてよ」
リリスは少し考えるそぶりした後、先ほどセルゲイと話した内容の中の一部を口にする。
「ん?何か特別なことでもあったの?」
「ううん。別に大したことじゃないわ。魔物を売る時、私たちのことはできるだけ広めないようにってお願いしただけよ」
「あ、そっか」
「正直この点はセルゲイさんに感謝ね。私たち自身が売りに行くわけにはいかないし、いつもみたいに念話で店主を引っ張ってくるのも面倒だし」
そう言うと、リリスはやれやれといった感じで嘆息する。
当然の話であるが、見た目10歳程度の少女二人が魔物の死骸を売りに店まで行くなんてことをすれば目立つ。それも尋常じゃないレベルで目立つ。別に隠して持っていけばいいのではとも考えられるが、そんないつばれるか分かったものじゃない危険はできる限りイヴたちとしては避けたい。それに隠して持っていくにはどうしても持っていく魔物の大きさに限度がある。たとえば今回のように狼型の魔物となればどう隠したところでやっぱり目立つ。そういう意味でも自分たちで売りに行くというのはあまり現実的な方法ではない。
それでは魔物を打って資金を得るか?答えは念話で店主の方に倒した魔物のすぐ近くまで来てもらうである。
これは神聖力と魔力の両者に言えることであるが、これらの力は単に身体能力を上げるという使い方以外もできる。それは力の塊を遠くに飛ばしたり、離れた人と会話をしたりといった具合である。ただ、これらの使い方は基本的に力を籠めればいい身体能力の向上と違い、繊細な力のコントロールを前提にしている。そのためどうしても使い手を選んでしまう。そんな使い手の絶対数が少ない念話の能力であるが、リリスは当然行使可能である。そこには才能、時間、そして明確な会得理由があったからこそだ。
そんな念話による誘導であるが、当然欠点もある。リリスが先ほど言った面倒といった理由もまさにこの欠点に起因する。さて、その欠点であるが……いきなり頭の中に声が響いてきて、不振がらない人はいないである!
考えてもみてほしい。普通に生活していたら突然頭の中に響いてくる女性の声。気味が悪い以外の何ものでもない。そして人間、気味の悪いものに無条件でしたがうなど普通ありえない。つまるところリリスが言った面倒とは、自分の声をきちんと聞いてくれそうな人を選別する時間。そして選別した相手に説明をする時間である。残念ながら話を聞いてくれそうな店主がいなければかわりの第三者を立てることもあるが、基本的にやることは同じである。面倒。正にその一言である。
……ちなみにどうしても適当な人が見つからなかった際は、しょうがないので所有権放棄である。仕方なく埋めるなどの対処をしたこともそれなりの回数ある。
「あはは、確かにね。私たちだけだったらその場に放置とかだったかも。そう考えると、あらためてセルゲイさんには感謝だね」
「まったくね」
今までの旅路を思い出し、イヴたちはセルゲイへの感謝を口にする。
そうして街の喧騒を背景に二人は雑談を続ける。
「それにしても、レルタって話には聞いてたけど大きな街だね」
「確かに。これは観光するのが楽しみね」
「うん!リリスちゃん、いろいろ見て回ろうね」
「もちろん」
そうして歩くことしばし。
「さて、街の観光の第一弾ってことで、まずは宿を楽しみましょう」
「はーい。それにしても近くで見るとやっぱりおっきいねぇ」
白い大きな建物を見上げながら、イヴとリリスは今回の宿である≪3つの十字≫に到着した。




