<2-5>
レルタの街に入った後もしばらくイヴたちとセルゲイとともに行動をする。
「ほら、あれが≪3つの十字≫だ」
そう言って指をさすセルゲイの指し示す方向を見れば、そこには石造りの白い大きな建物があった。
「うわー、おっきいですね」
イヴが思わずそう感嘆の声を上げる。しかしそれも無理からぬことである。その白い建物は周りの建物と比較しても何回りも大きなものであった。
「そうだろう、そうだろう」
イヴの歓声に宿を紹介したセルゲイも気を良くする。
「よし、じゃあここら辺で下すが大丈夫か?」
さて、そうこうしているうちにイヴたちを乗せた馬車は白い建物のすぐ近くまで到着する。
「あ、はい。さすがにもう見えてるので大丈夫です」
イヴの返事を聞くと、セルゲイは馬車を道のわきに寄せて止める。
「よいしょっと」
イヴは自分たちの持ち物であるカバンを背負うと馬車を降りる。
「じゃあ、すぐそこだけど気を付けていけよ」
「はーい」
「それからイヴたちが倒した魔物の売り上げだが、あとで≪3つの十字≫の受付に預けておくから、受け取ってくれ」
「ははは、ありがとうございます」
「いいってことよ」
そうイヴと言葉を交わした後、セルゲイは馬車を発進させようとする。しかし、そこでまだリリスが馬車を降りていないことに気付く。
「降りないのか?」
不思議に思ってセルゲイはリリスに問いかける。
「もちろん降りるわよ。ただその前に一つ言っておきたいことというか確認事項があるのよ」
「ん?なんだ?」
セルゲイはリリスの言葉に首をかしげる。
「まあ本当にただの確認事項だからそんな身構えなくても大丈夫よ。ただ、わかってるとは思うけど、私たちのこと、誰にも言いふらさないでねってことよ」
「あぁ、なるほどな」
リリスのセリフにセルゲイはなるほどとうなずく。
なにせイヴは魔物を一撃で倒せる実力の持ち主なのだ。当然、一般人視点においてイヴは神聖術の使い手であると勘違いされる。
神聖術の使い手は希少だ。ただでさえ絶対数が少ない才能。それを見た目10歳程度の少女が使える可能性がどのくらいかと言われれば、そんなものはほぼ0に等しい。そんな普通ありえないような可能性が目の前にいる。であれば当然、そこに至るにふさわしい裏事情があるとみられても仕方がない。そして実際のところ、イヴがこの強さを手に入れるに至った理由はその普通じゃない裏事情そのものである。
「お互い面倒事は避けたいでしょ」
「まったくだな」
その上イヴが使用している力は神聖術などではなく、吸血鬼の力と魔物の力と同じ魔力という、ばれたらもっとまずい代物だ。話が広がることは出来る限り避けたい。国にも、そして吸血鬼たちにも。
「それじゃあね。馬車、乗せてもらってありがとう」
その言葉とともにようやくリリスも馬車を降りようとする。
「なあ、一つだけ聞きたいことがあるんだが」
しかしリリスが馬車から降りる直前、セルゲイがその背中を呼び止める。
「何?」
「何で俺を助けたんだ?俺が言うのもなんだが、助けない方が俺に釘を刺すなんてことをやらずに済んだのに?」
それはある意味当然の疑問である。イヴが助けなければセルゲイが死んでいたのは事実である。しかしセルゲイが死んだからといってイヴたちへの不利益はない。むしろ助けたことによりセルゲイという目撃者をつくってしまった。これはイヴたちからすれば不利益であると言える。だからこそセルゲイは疑問に思ったのだ。
「ああ、そのこと。確かに必要はなかったかもね。私単独だったら見捨てていた可能性もあるわね」
セルゲイの言葉をリリスはあっさりと認める。
「―でも、そういう利害関係を無視しちゃうのがイヴなの」
そして続く言葉とともにリリスはイヴの方に視線を向ける。その視線には愛しさや優しさといった感情が含んでいるように感じられる。
そしてセルゲイもその視線の先であるイヴの方に目を向ける。
「明確な理由はないわ。ただそれがイヴの性分ってだけ」
―私もそのイヴの性分に救われたし。
リリスは心の中でそう続ける。リリスが思い出しているのは2年前のこと。カインの静止を押し切り、イヴが強引にリリスの願いを叶えるというわがままを押し通したあのとき。
「そっか」
リリスの言葉の含むところをなんとなくではあるが察したセルゲイは短くそう答えた。
「じゃあ、今度こそ降りるわね」
セルゲイの返事を聞いたリリスは、これで話は終わりとそう宣言する。
「おう。いろいろありがとよ」
「ええ、こちらこそね」
最後にそう言葉を交わし、今度こそリリスはセルゲイの馬車を降りたのだった。
1月ぶりです。ほんとすいません。何やってたかと言えば冬童話書いたり、とか。…はい、いいわけです。ほんとすいません。




