<89>舞台裏そして第1章エピローグ
研究所跡地。まだ夜が明ける前のことである。
「いやぁ、死ぬかと思った」
一人の男が立っている。くすんだ茶色の髪に青い瞳の40歳くらいの男。
「無事でしたか、室長」
そこにもう一人かなり大柄な男が近づいてくる。黒いロングコートを身にまとい赤みがかった茶髪を逆立てた壮年の男。少し前までリリスを封じていた扉の守護者をしていた男である。
「おぉ、君か!いやぁ、こっぴどくやられたよ。まさかあれほどまでに研究所のシステムを把握されていたとはね」
室長は先ほどま自身の研究所が破壊されつくされたというのにとてもうれしそうに語る。まるで想定外のことが心底うれしいとでもいうように。
「しかし、どうやって生きのびたのですか?正直死んだものと思っていました」
守護者は純粋な疑問を口にする。吸血鬼たちが研究所のトップたる室長を見逃すとはとても思えなかったからだ。
「ははは。そんなものは無論、死んだふりだ!」
「……死んだふりですか?」
「その通り!詳しいことは言えないけどこういうことも一応想定していて準備だけはしてあったといっておこうか。正直使うことになるとは思ってなかったけどね」
「そうですか」
「さてさて、これからどうしたものか。……そうだな、とりあえず一度王様のところにでも戻るかな。君もついてくるだろ?」
「はい」
こうして誰にも知られることなく二人はその場を立ち去った。
2年後。
とある乗合の馬車の停留所でのこと。
「おう、嬢ちゃんたち、もしかして二人か?」
そこには奇妙な客がいた。どう見ても十歳前後でしかない二人の少女。身なりを見るにそれなりにいいところの出であることがうかがえる。そんな二人が親や護衛もなしに二人で乗合の馬車に乗りに来たのである。
「そうですよ」
「一応聞くが、親とかはいねえのか?」
「はい」
「金を出すなら客だが……嬢ちゃんたち二人で危なくねえか?」
「ははっ。こう見えても見た目以上に歳はとってたりするんですよ。こっちのおねえちゃんなんか実は十八歳だったりします」
「なっ!?」
馬車の御者である男は目を見開く。先ほど片方の少女がおねえちゃんと言ったのは、二人の少女のうち小がらな方。大きな帽子をかぶっているその少女は、正直年齢が一桁だと言われても疑わないだろう。
「それマジか?」
男の目は明らかに疑っている。
「それが本当なんですよ。ホント、詐欺みたいですよね。一応年齢が示せるものもありますけど見ます?」
「いや、いい。世の中いろんな奴がいるんだな。疑って悪かった」
そう言って男は二人の少女の元から離れる。
「……ちょっとイヴ、詐欺みたいってどういうことよ」
男が離れたとたんに、今度は先ほど年齢が詐欺みたいだと言われた少女がもう一人の少女に不機嫌な顔をして詰め寄る。
「でも本当のことじゃないですか。正直私だってリリスちゃんのこと知らなかったら絶対疑ってますよ」
「……まあいいわ。どうせあと五年もすればイヴだってその詐欺みたいに仲間入りするんだから」
「うっ。そこを突かれると痛いです」
イヴとリリス。二人の少女は現在十四歳と十八歳であるのだが、その容姿は二年前からほとんど変わっていない。もっと言えばリリスの方に関しては十年前からその外見をほとんど変えていない。
……そのため詐欺みたいだと言われても仕方ない部分が少しある。
「ま、まあでも、今はあんまり関係ないわけですし……うん、この話は忘れましょう。さあ、早く馬車に乗って次の街行きましょう!」
すごい強引にではあるがイヴはこの年齢の話題を打ち切る。
実のところ最近この実年齢と見た目の年齢の乖離が少し気になり始めているのであった。
「……それもそうね。この話題、どうやってもお互いが傷つくだけだし」
「そうです、そうです。こんな不毛な話題より今はこれから向かう新しい街について考えましょう!」
「それがいいわね。イヴ、次の街って何かおいしいものってあったかしら?」
「どうなんでしょう?正直行先について私たちかなり適当に選んでますから、今回は全然調べてないですし。でもきっとありますよ!今度も一緒に楽しく旅をしましょうねリリスちゃん」
「そうね、イヴ」
二人で会話をしていたらいつの間にか馬車の出発の時間となっていた。二人の少女は馬車に乗り込む。そして二人の少女の楽しそうな声を乗せて、馬車は動き出していった。
これにて『私が永遠を生きるその前の話』第1章終了です。第2章も内容自体は考えてあるんですけど、細かいことがあんまり決まってないです。と、とりあえず気長にお待ちくだされば幸いです。
それと感想等ありましたらよろしくお願いします。




