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「これは現状イヴにしかできないことなんだけど―」
「わかった。やる」
「……まだ何を頼むのか言ってないんだけど」
「全然問題なし」
「この状況で頼みがあるってろくなことじゃないわよ?」
「それでもだよ。それに私にだけ『お願い』ってなんだか不公平だよ。私たちはいわば運命共同体、仲間だよ。だったらみんなみたいに『お願い』じゃなくて『指示』であってほしいな」
「……イヴ」
「それにそんなに長い付き合いじゃないけどリリスちゃんが言ったことで私のためにならなかったことなんてないし。だからやっぱり問題なしだよ」
イヴはそういうとリリスに微笑みかける。どんなことあっても問題ないよと伝えるべく。
「そう……わかった」
対するリリスも一瞬の思案の後、イヴに向き直る。
「じゃあ、遠慮なく。イヴ彼らと戦ってもらうわ」
そう言ってカインやリアたちが戦っている方へ視線を向ける。
「了解だよ、リリスちゃん」
肯定の言葉とともにイヴも戦いの方を見る。
こうして戦いは最終局面へと進んでいく。
「それでリリスちゃん、私はどうしたらいいの?わかってると思うけど、私がただ戦いに加わっても多分何にもならないよ」
何度も言うがただの村に住む子どもでしかなかったイヴは戦いの素人である。吸血鬼になって多少身体能力が上がったところで、目の前の戦闘に介入できるかといわれれば無理である。まず間違いなくカインたちの邪魔になるのが落ちである。
「でしょうね。今のイヴならね」
だがそんなことは当然リリスもわかっている。
「今の?」
「簡単な話よ。力が足りないんならそれを補えばいいだけの話」
ならばどうするか?リリスの答えはこの場で戦闘に介入できるまでにイヴの能力値を引き上げるというものであった。
「イヴ、私の血を吸いなさい」
そう言ってリリスは自らの左肩を出す。
「えっと……ごめんなさい、どうすればいいの?」
しかし困ったことにイヴは今まで一度も他人から血を吸ったことなどない。そのためどうすればいいのかイヴはわからなかった。
「……そういえばイヴは今まで一度も他人から血を吸うってのをやったことがないんだったわね」
「面目ないです」
「別に気にしなくてもいいわ。いきなり血を吸ってって言われても困るわよね。とりあえず血を吸いたいって思いながら私の左肩で首筋でも好きなところにイヴの歯が刺さる程度に噛めばいいわ。そのあとは私がいいって言うまで血を吸い続けなさい」
そう言うとリリスは再び自分の左肩を差し出す。
「えっと、では、失礼して……」
そしてイヴの方も若干の抵抗を見せたものの、今が戦闘の真っただ中であることを頭の中心に据えることでためらっていてはだめだと自分を奮い立たせてイヴの左の首元に噛みついた。
「……っ!?」
イヴの歯は思ったより簡単にリリスの首元に刺さった。血を吸い始めた瞬間である。イヴは思わず声が漏れてしまいそうになった。
―なに、これ……。
イヴは自分のうちから湧き上がる衝動に戸惑った。
あつい。最初に感じたのはそれだ。あのイヴが吸血鬼になった日、その時の感覚に似ていた。
しかしその後が決定的に違っていた。
あの時はただただ苦しいだけだった。あの自分の内側が壊されていく感覚。それがとても苦しいものだった。
しかし今飲んでいるリリスの血はなんと気持ちいいものか。
甘くて甘くて、この甘さをいつまでも求めてしまう。
「はぁ……はぁ」
イヴの息は荒いものとなっていた。
―欲しい。もっと……もっと!
そして気付けばイヴは夢中でリリスの血を吸っていた。
体が快楽を、リリスを求めていた。
なんとなく溺れる感覚に似ている気がした。




