<70>
場違い感はあるがイヴは先ほどの言葉に『悪役みたいだなぁ』などと思う。しかしどうやらそれは相手の方も同じことを思っていたらしい。
「……おい、なんだそのセリフは」
「いやぁ、こういう時の定石かなと思いまして。前に進もうとしている女の子たちの前に現れる敵。その敵は女の子たちをこれ以上前に進ませる気はないとくれば、やっぱりこんな感じの悪役的セリフになるでしょ?」
「お前の常識を語られても困るんだがな」
などとそんな感じの気安い会話が目の前で繰り広げられる。しかし一方で隣を見ればリアはかなり緊張した面持ちで前方の男たちをにらんでいる。その姿は相手に隙を絶対に見せないようにしているのと同時に、相手の隙も探っているのだろう。そしてそのリアたちの対応にイヴはなんとなく目の前の4人の実力の一端を垣間見る。
―あんなに隙だらけに見えて全然隙がないんだ、この人たち。
何度も言うが今まで戦闘というものと無縁だったイヴは相手の脅威を正確に測るというような芸当は当然できない。吸血鬼になったことで多少の見分けくらいはつくようになったがそれでもまだまだかなりおおざっぱである。
ならばそんなイヴがどうやって敵の脅威を測るか?それは周りの対応の具合を見てである。
イヴもいくつか戦闘というものを見てきた。それでわかったことは吸血鬼という存在は強いというとこである。実際キンバリーと機密区画の守護者の闘いを除いたすべての戦闘が吸血鬼1人に対して敵多数という状況で行われていた。それはもちろん相手の人数の方が多いために必然的にそうなるというのもある。しかしそれ以上にその程度の差なら吸血鬼というのは容易に覆してしまうという事実があった。それは高い身体能力しかり、多少の傷なら即座に回復してしまう不死性しかりである。
そんな事実を踏まえたうえで目の前の状況である。敵の数は4人。基本的に一人で対応できるはずの数である。対してこちらは6人。そのうちイヴ、リリス、ティアは非戦闘員であるため戦闘員は実質3人。こちらも本来なら過剰戦力のはずである。しかし現実はそうはならない。吸血鬼3人が油断なく敵の様子をうかがっているというにも関わらず、目の前の4人は気安い感じで会話である。そこから導き出される答えはただ一つ。相手がとんでもなく強いということ、そしておそらく逃げられないということ。
そんな風に周りの状況を分析していたイヴであったが今度は後ろからの声にその思考は中断される。
「ならここはもちろん悪役らしく倒されてくれるのかしら?」
この場でそんなことを平然と言ってのける人物―リリスの声が場に響く。
「んー、それは残念だけどムリかな?」
それに答えたのは先ほどと同様ライトブラウンの髪の男である。
「あら、それは残念」
「ごめんね。こっちも倒される気なんてさらさらないから」
二人とも相も変わらず軽口の応酬である。
「だけど私たち、どうしてもそこを通りたいのよね。だから……」
そこで一度言葉を切ったリリス。一度大きく息を吸い込むと先ほどまでより一回り大きな声を出して、イヴたちがいる場所のさらに後ろにいる男に向かって声をかける。
「頼んだわよ、カイン!」




