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研究所内とある機密フロアにて。
「起きてるカイン?」
暗い室内。そこに真っ白な少女が一人。少女の名前はリリス。その髪は雪のように白く、白くどこまでも白い。そんな少女の中で唯一白でないのがその瞳。それは鮮血のような深紅であり、暗い室内で怪しく光る。
そんな幻想的と評されるような少女が虚空に向かって話しかける。
「ああ」
返ってきたのはそっけない感じの男の声。ただし実際に声がしたわけではなく、あくまでリリスの頭の中にだけ聞こえる声である。
「今日は一つ大事な報告があるの」
「何だ?」
「イヴの準備ができたわ」
「……そうか」
その言葉の後カインと呼ばれた男は何事か考えるような雰囲気を出す。しかしリリスはここでカインの考えていることを覗き見ようとはしない。これはいわばリリスが勝手にやっているだけの配慮である。そもそも念話というものは意識と意識がつながった状態である。そのため念話中にする考え事は特殊な技術がない限り基本ダダ漏れだ。そんな状態にも関わらずカインが平然と考え事をするのはリリスの配慮を信用してのことか。それとも別に隠すことなどないという意思の表れか。
「なら計画の方はどうする?」
「ええ。私としては三日後の夜ってところかしら」
「……妥当なところだろうな」
計画の実行はできる限り早く行いたい。しかし計画を実行するにはどのタイミングでどのように行うか計画に参加する者一人一人に話を伝えなければならない。しかし現状それが可能なのはリリスただ一人である。その上日中は基本研究の被検体をさせられれている。そんな中で計画についての話をするわけにもいかない。計画の実行には細心の注意が必要である。つまりそのために計画は三日後というわけだ。
「いよいよね」
「ああ」
「これに失敗したらもう二度とチャンスは巡ってこないかもしれないわけだけど……覚悟はちゃんとできてる?」
「ふっ。愚問だな」
「そうね」
ここで二人は一旦会話を止める。それはここに至るまでのこと思ってか。
そしてそんな沈黙が十秒ほど続いた後、カインが声をかける。
「必ず成功させる。俺たちの力で」
「ええ」
「そのための最初の一手……任せたぞ」
「もちろん。任されたわ」
これを最後にこの日の密談は終わるのだった。




