<55>
また間が空いてしまいました。申し訳ないです。
「―それでは机の上にある薬を飲んでください」
「……はい」
リリスがイヴに吸血鬼のことを話した次の日。その日もイヴは前日までと同様に検査や実験をさせられていた。この日の実験は目の前の机の上に置かれている薬を飲むことらしい。……しかし、しかしである。
―何なんですかこの毒々しいピンク色の液体は!
そう、目の前に置かれているこの薬、明らかに人が飲んだらダメな雰囲気をこれでもかと醸し出しているのである。もはやこれは薬というよりも毒と表現した方が適切であろう。
―私こんなものをよく今まで何も考えずに飲んでましたね。
イヴの記憶の中には今目の前にあるものとは別物であるが、やはり毒々しい色の薬を飲んだというものがある。
リリスのおかげで心を取り戻したイヴであったが、それと同時に今まで良くも悪くも何も考えなかったおかげで気にならなかったものが一気に気になるようになった。例えば目の前にある毒々しいピンク色の液体である。
―うぅ、飲みたくないよぉ。
そうは思っても飲まなければいけない。加えて言うならそこにためらいなど見せてはいけない。昨日リリスと約束したからだ。研究所から脱走するまでの間イヴの変化を、心を取り戻したことを悟らせないために。この変化が研究員たちの知るところとなれば原因究明のため何かしらの追及があるかもしれない。そうなってしまった場合脱走計画が実行不能になってしまう可能性が出てくる。そんな未来は絶対に回避しなければならない。
―数日です。ほんの数日我慢すればいいだけです!
数日我慢するだけ。とにかくイヴはひたすら自分にそう言い聞かせた。この数日というのはリリスがイヴに提示したものである。
『イヴの決意、確かに受け取ったわ。数日中に必ず計画を行うわ。イヴはそれまでいつでも動けるように準備してなさい』
イヴの決意に対してリリスが昨日返した言葉だ。
―それに私を信じてくれたリリスちゃんを絶対裏切るわけにはいきません!
そうしてイヴは気持ちを新たに、目の前にある毒々しい色の薬を持ち上げると一切のためらいを見せず一気に飲み干すのだった。
……飲み干した後少しの間意識が飛んでしまったのはしかたなかっただろう。




