<44>8年前⑭
「……ん?」
次に目覚めた時、私は真っ白な部屋の中にいた。周りを見回してみても白い壁以外に何もない。しいてあげるならば、扉がひとつと今私が寝ているベッドくらいであるが。
「どうなってるの?」
本当にわからない。
自分の記憶をさかのぼってみるがやはりわからない。
そう、自分は間違いなくあの化け物に殺されそうになったはずである。
「死んだ後の世界とか?もしくは夢だったとか?」
正直そうとでも考えなければ本当にわからないのだ。
そうしてしばらく考えているときである。部屋の扉が急に開かれた。
「おや。もう起きていたのか?」
そう言って入ってきたのは、くすんだ茶色の髪に青い瞳のおよそ30歳中頃と見られる男。
「えっと。あの……」
正直あまりに色々なことが起こりすぎていて何をしゃべっていいのかわからない。
そんな私の様子を察したのか男のほうが声をかけてくる。
「今回は災難だったね」
「えっと、はい」
「まさかあれだけの魔物がね……」
「……はい」
なぜだろう。初対面のはずなのに、私はこの人をまったく好意的に見ることができない。
「ところでひとつ質問なんだが」
「……なんでしょう」
「君は一体何ものだい?」
「……それはどういうことでしょう?」
「うーん。まあ端的に言うとね、私は君を人間だと思っていない」
「……え?」
私は思わず目を大きく見開く。人間じゃ……ない?
「しかし魔物というには君はあまりにも人間に似すぎている。というよりぱっと見た感じ人間との相違点がわからない」
「あ、あの……」
「では人間ではない、かといって魔物でもない君はいったい何なのか―」
「あの!」
「ん?どうしたのかね?」
「……聞きたいことがあります」
そうどうしても聞きたいことがある。
「何かな?」
「私が人間じゃないってどういうことですか?」
これである。さっきあまりにさらっと言われてしまったため一瞬思考が止まってしまったが、あまりに突拍子のない言葉である。
「どういうも何も言葉通りの意味だが?」
「……言葉通りとは?」
そう、突拍子もない言葉のはずである。それなのに私の心はこれ以上聞くなと必死に訴えかける。
「おや?もしかして気付いてないのかな?」
「……何にですか?」
しかし私はその心の訴えを無視してさらに追求することにした。
「いや、実に簡単なことなんだが。普通の人間はね―」
男はここで一瞬言葉を区切り、続く言葉をゆっくりと言った。
「失くなった手足が自然に再生したりしないんだよ」
「……」
わかっていた。
いや、気付いていた。
なぜか致命傷だったはずの怪我やなくなったはずの右腕が元に戻っているのである。
「ちょっと調べたけど君は何か特殊な神聖術が使えるとかではなさそうだったしね。実に簡単なことだろう?」
「……」
「それと君を襲っていた魔物がいたろう?あれどうなったか知ってる?」
「……知りません」
「死んだよ。それも調べたところ君の腕を食べたすぐ後にね。何の外傷もないにも関わらずね」
「……」
正直あの魔物が死んだというのは素直に喜ばしい。でも……私はこれがいったい何を意味してるのかわからない。いや、知りたくない。
「そうそう。言ってなかったけど、君の事はこれからいろいろと調べさせてもらうから」
「……え?」
―どういうこと?
「いやぁ、実に面白そうな研究対象が見つかって喜ばしい限りだよ。もうちょっとしたら君のことを研究所まで護送するからそのつもりで」
「あ、あの!」
なんとなくだけどいやな予感がする。
「何か質問でも?」
「……私はこれからどうなるんですか?」
「?私の研究所に行くのだが?」
ちがう。そういうことが聞きたいんじゃない。
「……私はいつ帰れるんですか?」
そんな私の問いに対して男はまるでそれが確定事項であるかのように話す。
「あぁ、そのことか。それならもちろん帰れないに決まってるじゃないか。ていうかすでに君は死亡したことになってるしね」
「……それを私が素直に認めるとでも?」
「まぁそんな反応が返ってくるだろうね。おーいジェイルくーん」
男のその言葉の後、扉を開けて一人の男が入ってきた。男は褐色の肌に黒の短髪の30歳手前といった感じである。
「とりあえずその子、一回気絶させて。運ぶのめんどくさそうだから」
「な!?」
驚きに思わず声を上げる私であったが気付いた時には褐色のの男は目の前から消えており、私の意識は再び闇の中に沈むこととなった。
そうして次に目覚めたとき、私はすでに研究所というところにいた。それから8年間私は研究所に幽閉され続けた。
ちょっと最後長くなったけど、これにて8年前編終了です。次回から時間軸が戻るわけですが…イヴとかどんな感じで書いてたかちょっとあやしいです。




