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少しの不安を感じたものの特に何かが起こることもなく時間は過ぎ夜となった。そして現在はお母さんと一緒に夕食の時間。今日は私もお母さんもお父さんに注意を受けてから家を出ていないのでもともと家の中にあった食材のみで夕食を作ることとなった。ちなみにメニューはパンに肉と野菜のスープそれとサラダといったごくごく普通のものだ。
「それにしてもお父さん、あれから帰って来ないね」
お父さんは日中一度家に戻ってきてから今の時間まで帰ってくることはなかった。
「そうだね。まあでも、何かあったならもう少し騒がしくなったりするものだから多分まだ状況が何も動いてないから動くに動けないからとりあえず待機してるってところかしら。それに日が沈んでから魔物捜索するのもかなり危険だしね」
お母さんが「朝とか夜中に帰ってきてもいいように何か作り置きしておこうかしら?」などとつぶやいている傍らで
「ならやっぱり今日中には終わらないかな?」
と半ば確信しつつお母さんに聞いてみる。
「断言はできないけどおそらくそうなると思うわね。それにしてもどうしたのイヴ?何かお父さんに用事でもあった?」
「ううん。そういうわけじゃないの。久しぶりに魔物なんて出てきたからかもしれないけど、なんとなく不安なんだよね」
と昼間感じた言いようのない不安についてお母さんに話してみる。
「なるほどね。強い魔物が出てきてお父さんが怪我とかしないか心配になったわけね」
「……うん」
本当はもっとよくわからない……それこそ得体の知れない感じの漠然とした不安であったのだがこれをどう表現していいかわからず、若干歯切れが悪くなったがイヴはお母さんの言葉を肯定する。
「それは仕方のないことよ。いくら弱い魔物でも私たちにとっては十分脅威だしね」
そんなイヴの若干歯切れの悪い言葉に対してお母さんは特に何か疑問を感じる様子もなく答える。
「それにお母さんだってイヴと同じでお父さんが危ない目にあってないかとっても不安なんだからね」
「そうなの?」
お母さんがあまり普段と変わっているように見られなかったのでついつい聞いてしまう。
「もちろんよ。それとももしかしてイヴはお母さんが何にも不安なんて感じてないように思った?」
お母さんがそんなことを聞いてくるので私は正直に答えた。
「お母さん、私と違って普段とあんまり変わらないみたいだったから」
「そりゃそうよ。だってお母さんまで怖がってたら……ただでさえ不安でいっぱいのイヴがますます不安になっちゃうじゃない」
そんな私に対してお母さんは私が安心するように微笑とともに答えてくれた。
「ちょっと待ってイヴ」
夕食後、いよいよ寝る時間になって自室に行こうとするイヴをお母さんが呼び止める。
「どうしたのお母さん?」
私がどうしたのかとお母さんに尋ねると
「今夜は久しぶりに一緒のベットで寝ない?」
と返してきた。
「ええと、いいの?」
「いいも何もお母さんが提案したことよ」
正直なところイヴはまだかなり不安を抱えていた。そんな中でのお母さんのこの提案なので内心かなりうれしかった。
おそらくそんな心の機微をわかった上でお母さんは提案してきたのだろうが。
「ええと、じゃあ枕取ってくるから待ってて」
「そんなにあせらなくてもいいわよ。それにお父さんが帰ってきたら自慢できるわね。きっと悔しがるわ」
「それは……ははは」
イヴのお父さんは同じ自警団のバリーへの対応を見てもわかるとおりかなり娘を溺愛している。
……まあこの場合バリーの性癖の方に問題があるという見方もできるが。
とにかくそんなお父さんが「一緒に寝た」などと聞けば、うらやましがったり、悔しがったりするであろうことは想像に難くない。
そんなことを考えつつイヴは普段はお父さんとお母さんが使っている寝室に自室から枕を持参して入った。そうしてお母さんのベットに自分の枕を置いた後、一緒にベットの中に入る。
「じゃあ、そろそろ寝ましょうか。おやすみなさいイヴ」
「おやすみなさいお母さん」
お互いに就寝の挨拶をした後、部屋にあるろうそくの明かりを消す。
ベットに入り明かりを消してみると自分が思いのほか疲れていることに気付く。どうやらお父さんが一度戻ってきたあとからずっと不安で緊張していたらしい。
こうしてイヴは明かりを消した後すぐ夢の世界へと旅立つこととなった。
漠然と感じていた不安を心の片隅において。