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遅くなりました
その日の夜も昨日までと同じようにリリスの声がイヴに届いた。
「こんばんはイヴ」
「……こんばんは」
10日間の成果として、挨拶をすればそれにちゃんと返してくれるようになった。小さいながらも着実な変化である。
「今日もやっぱり検査だった?」
「……うん」
「そう……。なんというかずいぶんと丁寧に検査するのね」
「……そうなの?」
これも10日間の中の変化である。リリスが「会話を続ける努力をしてよ!」と涙混じりに散々お願いしたことで以前より会話が成立するようになった。
「そうね。前はもっと大雑把だった印象かしら」
「そう……」
しかしまだまだ改善の余地が大いにある状態ではあるが。
「多分だけど以前とれなかったデータをできる限り取りたいんでしょうね」
「……」
「まあそんなことは置いておいて、今日は何か話すことあるかしら?」
ここでイヴはほんの少しだけ考えてみる。考えてみるが……。
「特に……」
やはりこの答えである。
「まあそうでしょうね。いい加減なれたわ」
この10日間でさすがにちょっと慣れてたリリスである。
「うーん。さすがにいつもいつも今日何があったって話題もこう何日も続けると飽きてくるし」
「……」
「それに特別変わったことって、研究所内にいる分には全然起きないものね」
そう言って、しばし次に何を話そうか考え始めるリリス。
「……そうね。友好を深めるためにもここら辺でもう少し私のことについて知ってもらおうかしら」
「……」
「いつかは話すことになるだろうことだし、今やっても多分問題ないわね」
そう言って一人納得するリリス。
「さて、じゃあ何から話したものか……」
そうして再び考え出し、しばしの間黙るリリス。10秒ほど沈黙が続いたあたりで話すことを決めたのか再びリリスの声が聞こえだす。
「そうね、まずはやっぱり私がどういう存在かってことから話そうかしら」
「……」
「気付いてるかもしれないけど、私もあなたと同じで今この研究所内にいるわ」
「……」
「そういえば前にチラッと言ったけど、何で私が検査とかいろいろ知ってるのかってのは、一番は私も過去に同じようなことをやったからってのが一番ね」
「……そう」
「それから実は私、この研究所に一番初めにつれてこられた人間だったりするのよ」
「……」
「あれはもう8年も前のことになるわね……」
そうしてリリスが語るのは8年前のこと。それはリリスの記憶。
そしてすべての始まりの話。




