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あれから3日後。イヴは軟禁生活を送っていた。
場所は相変わらず最初に起きた白い部屋である。食事など必要なものは届けられるので生きていく上で困ることはない。ただここから出られないことを除けば。
しかし現在のイヴにここから出ようという発想が生まれることはない。それだけでなくすべてのことに対して、あるからやる、言われたからやる、何もないなら何もしないといった状態である。その瞳に光はなくただただ虚空を見つめるばかり。
この2日間に何かがあったのか?
答えはノーである。
この2日間何かしら大きな出来事があったかと言われれば、まったくなかったと誰もが答えるだろう。
ではなぜこんな状態になってしまったのか?
答えは実に単純なものである。ただやめただけだ。考えることを。心を動かすことを。
イヴが目を覚ましたのは気を失った次の日のことであった。
しかし起きてすぐ思い出すのは、気絶する直前にあった室長との会話。そしてそれに連なる自分の村の人たちから流れる赤い血の記憶。
イヴは必死にその光景を頭から追い出すように、考えないようにした。しかしどれだけ考えないようにしても頭をよぎる血の記憶。果てには実際に見ていないはずのお父さんやお母さんが血を流してた終えている光景まで想像が及んでしまう。
「やめてやめてやめてやめてやめて」
その姿は凄惨の一言であり、自分の想像の中の怪物―それは室長の姿や仮面をつけた男の姿をしていたりする―にとにかく許しをこいていた。こんなものを見せないでほしい、私の世界を壊さないでと。
その他にも、食事の中にトマトが入っていればその赤い色に反応しパニックを起こしたりなどその日は一日中ひどい有様であった。
しかし日が明け次の日になると、イヴの様子は一変していた。取り乱したりすることもなければパニックに陥ることもない。
そこにはただただ無だけがあった。
おそらくそれは一種の防衛反応であったのだろう。このままではそう遠くないうちにイヴの心は完全に死んでしまうと予想される。そうなってしまえばもはやヒトではなくただの人形だ。死んでいるのと大差ない。だからそうなる前にイヴの生き物としての本能が考えるのを、心を動かすのをやめさせた。自分の心を殺してしまわないために。
そうして今に至ることとなる。
その間、人に言われたことをやることだけにただただ終始した。
そこに当然伴われるべき感情をすべて置き去りにして。
それ以外の事は何もすることなく。




