<2-12>
翌朝。
起床後二人揃って朝食を食べた後のことである。
一度部屋に戻り、今日の予定について話しているときにその事件は起きた。
「ところでリリスちゃん、今日はこれからどうしましょうか?何かしないといけないこととかってありましたっけ?」
ベッドに座っているリリスにイヴが問いかける。イヴの問いに対してリリスは人差指を口元に持ってくるとしばしの間考えを巡らせる。
「んー、そうね……特にこれと行って急いでやるようなことは今のところないかな」
しかし現状特に優先させないといけないようなことはなかった。
「じゃあ、今日は観光ってことでしょうか?」
「そうなるわね」
「わー!今回は大きな街ですし、ちょっと楽しみです」
今日は観光ができると聞いてイヴは胸の前で小さくガッツポーズを取る。加えて顔はこれからのことが楽しみだとばかりに満面の笑みである。
「それでそれで、今日は何を見て回りましょうか?」
「そうね……まあ無難に食べ歩きでいいんじゃない?まだ私たちこの街のことあんまり知らないし。明日以降のための情報収集がてらって事で」
「おー。確かにそれがいいかもですね。じゃあリリスちゃん、早速出かける準備をしましょう!」
「はいはい」
今日は普段以上にご機嫌な様子のイヴに、苦笑混じりながらリリスも答える。しかし一見冷静そうに見えてリリスも内心は普段より浮き足立っている。その証拠に時々笑みが隠し切れていない。まあこのあたりは二人ともいまだ20年も生きていない女の子ゆえに仕方が無いことだろう。
後になって思う。このとき二人の心理状態がもう少し平静であったなら、きっとこの事件は起こらなかっただろうと。
すべては二人が出かける準備を始めたときに始まった。
「そういえばイヴ、あなたここ最近血を飲んでなかったと思うけど大丈夫?」
リリスはそういえばとばかりにふと思いついたことを言った。リリス本人からすれば雑談の延長線上みたいなものである。
「そういえばここ数日は飲んでなかったですね」
イヴの方も特に気負いもなく答える。
「昨日は一応戦闘もしたわけだし、そろそろ飲んでおいた方がいいんじゃないかなと思ったんだけど」
吸血鬼であるイヴは時々であるがリリスから血をもらっている。これは吸血鬼になったことで生じた吸血衝動ゆえである。ちなみにこの前回の吸血から次の吸血までの期間は一定ではなく、その期間中に行われた戦闘回数などによって大きく変化する。まあ多少であれば我慢はできるため、最終的にはイヴの衝動の大きさ次第といった感じではあるのだが。
「そうですね、感覚としてはまだもうちょっと大丈夫な感じではありますね」
「そう。じゃあ今日は飲まなくても大丈夫?」
「うーん、今飲まなくても結局2,3日後には飲まないといけなくなりますし……。よし決めました。せっかくなので今もらっておきましょう。思い立ったが吉日とも言いますし、それに街に着いたばかりで区切りがいいと言えなくもないですし」
少し考えたが、どうせ近いうちに飲まないといけないなら今飲んでも同じだろうイヴは結論を出した。
「ではすいませんがリリスちゃん、ちょっと血をもらってもいいですか?」
「いいわよ。そもそも私が言い出したことだしそんなにかしこまらなくてもいいわよ」
「あはは、ありがとうございます」
イヴはこれまでの生活で吸血衝動をすべてリリスの協力でもって解消してきた。そのためどうしても血を吸う前だけはリリスにかしこまってしまう。もう一方のリリスはといえば、この吸血衝動のそもそもの原因が自分であると思っているためイヴにはまったく気にする必要はないと言う。この会やりとりをするのも何度目か。いつものことであるが、この時ばかりはなかなかままならい二人である。
「よいしょっと。はいイヴ、早くしてね」
リリスはその言葉と共にベッドに腰掛けると自身の肩と首筋をイヴの目の前に曝す。
「はい、では遠慮無く」
イヴの方もまた無防備に曝されたリリスの首元にその顔を近づけた。




